処分性の判断枠組み — 裁判所は中身より先に入口を見ます
役所の決定に納得できないことがあります。営業の許可が下りなかった、給付が認められなかった、という場面です。こうしたとき、決定の取り消しを裁判所に求める仕組みがあります(取消訴訟といいます)。
ただ、この裁判には少し変わった特徴があります。裁判所は、訴えの中身が正しいかどうかを見る前に、「そもそもこの訴えは、この裁判で扱えるものか」を先に確認します。ここで断られると、言い分がどれほど正しくても、中身は一度も審理されないまま終わります。
この入口の確認は、大きく3つあります。このシリーズで扱うのはその1つ目、「争う相手の行為が『処分』といえるか」です。
役所のどんな行為なら、取り消しを求める裁判の土俵に載るのでしょうか。
生活を実際に動かす紙と、動かさない紙があります
役所から届く紙にも、いろいろあります。ごみ収集日の案内もあれば、税金の督促状もあります。案内は読み飛ばしても生活は変わりませんが、督促状を放置すれば、財産の差し押さえへ進みます。同じ「役所からの紙」でも、あなたの権利や義務を実際に動かすものと、動かさないものがあるわけです。
動かしたなら、取消訴訟で争えます。ただの案内・お願い・役所内部の連絡・民間と同じ取引なら、入口の審査で退けられます。確認する要素は2つだけです。
条文の二語が、そのまま2つの要素になります
根拠となる条文は、行政事件訴訟法3条2項です。
行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(行訴法3条2項)
判例は、この「公権力の行使に当たる行為」を、2つの要素の両方を満たすものと読んできました。直感の問い(公権力が・直接動かしたか)が、そのまま対応します。
1公権力性
国・自治体が、一方的・権力的に行う行為かどうかです。相手の同意を前提とする私法上の契約(民間と同じ取引)や、ただの事実行為は外れます。
2直接・具体的な法的効果
特定の人の権利義務を、直接かつ確定的に変動させるかどうかです。一般的・抽象的な規制や、行政内部だけの効果は外れます。
判断の鉄則は「形式ではなく実質」です。勧告・告示・通達・計画・条例といった名前に惑わされず、実質で判断します。このほか、効果が行政の内部にとどまらず国民に向かうこと(外部性)も、要素として挙げられます。
「処分性あり」は「勝てる」という意味ではありません
いちばん混同しやすいのはここです。処分性が認められることと、その処分が違法で取り消されることは、まったく別の問題です。処分性は入口の審査を通れるかの話にすぎません。就職試験でいえば、エントリーが受理されただけで、採用が決まったわけではありません。
「処分性が認められれば、当該処分は取り消される」という肢は誤りです。違法かどうかは、その先の本案(訴訟の中身の審理)で、これから判断されます。
実務の相談は、多くの場合「役所からこういう書面が届いたのですが、どうにかなりませんか」という形で始まります。最初にすべき判断は、その書面が「処分」かどうかです。処分であれば、不服申立てや取消訴訟という土俵が開きます。処分でなければ、協議や申請のやり直しなど、別の道を探すことになります。入口の見極めが、そのまま方針の分かれ目になります。
冒頭の問いに戻ります。取消訴訟の土俵に載るのは、公権力が特定の人の権利・地位を直接動かす行為だけです。そして、土俵に載ることと勝つことは別の話です。次のユニットでは、この軸が実際の判例でどう働くかを、紛らわしいペア(告示と計画)から見ていきます。