告示と計画 — 「まだ決まっていない」はいつまで通用するのか
駅前などの入り組んだ一角を、区域ごと引き直して整った街につくり変える工事があります。「土地区画整理」と呼ばれる事業で、区域の中の土地は、場所や形が変わることがあります。
自分の土地がその区域に入っていて、計画に納得できないとしたら、最後の手段は裁判になります。ところが長いあいだ、この裁判は起こせませんでした。計画の段階で訴えても「まだ図面の話にすぎない」と退けられ、工事が進んでから訴えても、出来上がりつつある街を元に戻すことは現実には望めないからです。早すぎるか、遅すぎるか、どちらかしかなかったのです。
この状態は約40年続き、平成20年に最高裁が判例を変更して終わりました。何が決め手になったのでしょうか。
広く網をかけるだけに見える「告示」や「計画」は、どの段階から、裁判で争える「処分」になるのでしょうか。
「全員向けのルール」と「名指し」は、別ものです
職場の服務規程を思い浮かべてください。「服装は清潔に」という全員向けの一文で、翌日から何かを具体的に禁じられる人はいません。ところが「〇〇さんは明日から在宅勤務禁止」と名指しされたら、その人の働き方は現実に変わります。
役所の行為も、この軸で見ます。告示(役所が物事を広く一般に知らせる形式)でも計画でも、広く網をかけるだけなら「処分」ではありません。特定の土地・特定の人の扱いを確定的に変えるなら、名前が何であれ「処分」です。見ていく判例は4つ、覚える軸はこの1つだけです。
4つの判例は、1つの軸で並びます
まず「あり」の側です。狭い道沿いの敷地では、建築基準法42条2項に基づく「二項道路」の指定によって、建築が確定的に制限されることがあります。この指定は告示で一括して行われますが、効果は特定の敷地に直接及びます。名前は告示でも実質は名指しの制限なので、処分性が認められました(最判平14.1.17)。
次に「なし」の側です。用途地域の指定(住宅地・商業地など、土地の使いみちのルールを地域ごとに定めるもの)も建築の規制を変えますが、不特定多数への一般的・抽象的な規制にとどまります。特定の誰かを名指しするものではないため、処分性は認められません(最判昭57.4.22)。
そして判例変更が起きたのが、冒頭で見た土地区画整理です。計画段階で訴えを退けるこの扱いを、判例は「青写真」(まだ図面にすぎない)という言葉で正当化してきました。しかし、施行地区(事業の対象区域)内の宅地所有者は、計画が決定されると換地処分(土地の割り当ての変更)を受けるべき地位に立たされます。実効的な権利救済の観点から、計画決定の段階で処分性が認められるようになりました(最大判平20.9.10)。第二種市街地再開発事業の計画決定も、公告から30日以内に「補償金を受け取るか、再開発ビルの床(建築施設の部分)の給付を申し出るか」の選択を迫られる地位に権利者を置くため、処分性が認められます(最判平4.11.26)。
出題者は「名前」と「古い結論」で仕掛けてきます
ひっかけの型は2つです。1つ目は名前による一般化で、「告示は一般的規制だから処分性なし」という肢です。二項道路の告示は「あり」ですから、これは誤りです。名前ではなく、特定の人への確定的な効果があるかで判断してください。
2つ目は古い結論の再利用で、「土地区画整理事業の計画決定は青写真にすぎず、処分性が認められない」という肢です。これは判例変更前の結論です。「昔はなし、いまはあり」とセットで覚えてください。
開業すると、依頼者からこう聞かれることがあります。「市がこんな計画を出したのですが、今から何かできるのでしょうか。それとも、決まってからでないと動けませんか」。処分性の判断は、この「いつから動けるか」に答えるための物差しになります。時期の見立てを誤ると、依頼者は動ける期間をただ待って過ごすことになります。
冒頭の疑問に戻ります。約40年の板挟みを終わらせた決め手は、計画の決定によって、特定の人が名指しされ、退路を断たれた地位に立つという見方でした。そこまで来ていれば、争うのに「早すぎる」ことはありません。形式が告示か計画かも関係ありません。次のユニットでは、同じ軸が「勧告」と「条例」でどう働くかを見ます。