WACC — 株と借金をブレンドした「資金の仕入単価」です
コーヒー豆を2種類、6:4で混ぜてブレンドを作るとします。ブレンドの仕入単価は、2つの豆の単価の加重平均です。会社のお金もまったく同じで、株主のお金と銀行からの借金という単価の違う2種類を混ぜて調達しています。
この「資金のブレンド単価」がWACCです。混ぜる前に1つだけ下ごしらえがあり、そこが出題の的になります。
株式と負債の両方で資金を集める会社の「調達コスト全体」は、どう1つの数字にまとめるのでしょうか。
借金のコストは、経費で落ちる分だけ安くしてから混ぜます
株主のお金のコストkₑは、前のユニットのCAPMで出せます(例:11%)。借金のコストk_dは表面上は借入金利です(例:4%)。ただしここに下ごしらえが要ります——支払利息は経費になり、税金を減らすのです。税率30%なら、利息100万円を払うと税金が30万円軽くなる。だから借金の実質コストは4%×(1−0.3)=2.8%まで下がります。
あとはブレンドです。株のお金が全体の60%、借金が40%なら、11%と2.8%を6:4で加重平均する——それがWACC(加重平均資本コスト)です。
式は1本、ウェイトは時価ベースが原則です
数値で確かめます。kₑ=11%・k_d=4%・税率30%・E/V=60%・D/V=40%なら——税引後負債コスト=4%×0.7=2.8%。WACC=11%×0.6+2.8%×0.4=6.6%+1.12%=7.72%です。
2つの注意点を式に貼り付けます。第一に、ウェイトE/V・D/Vは時価ベースが原則(帳簿価額ではありません)。第二に、WACCの使い道です。投資プロジェクトは最低でもWACCを上回るリターンを出さないと、資金の仕入単価すら回収できません。だからNPV計算の割引率や、IRRの比較相手(ハードルレート)としてWACCが登場します。前の論点(投資の意思決定)と、ここでつながります。
(1−T)を掛けるべきところに、Tを掛けさせます
最頻出の誤り筋は税調整のすり替えです。k_d×T(4%×0.3=1.2%)を税引後コストとして混ぜさせる——正しくはk_d×(1−T)=2.8%です。「残るのは(1−税率)側」と、税引後CFの式(税引前CF×(1−税率)…)とセットで固定してください。
次に多いのが、株式側にも(1−T)を掛けてしまう誤りです。節税効果があるのは利息(経費になる)だけで、配当は経費になりません。税調整は負債側だけ、が鉄則です。
「この設備投資、何%で割り引けばいいんですか」。NPVの助言で割引率の根拠を聞かれたとき、「御社の資金の調達単価=WACCです」と答えられると、数字に説得力が生まれます。金利の安い借金を増やせばWACCが下がって見える——その先の落とし穴(財務リスク)は、このシリーズ最後のMM理論で扱います。
冒頭の問いに答えます。WACC=kₑ×(E/V)+k_d×(1−T)×(D/V)。負債コストだけ節税分を安くしてから、時価の比率でブレンドします。これで割引率の作り方までそろいました。次のユニットは応用の一歩目——「毎年育つ配当」から株価の理論値を出す、ゴードン成長モデルです。