DCF法 — 5年は個別に、6年目からは「ざっくり一括」で値付けします
会社まるごとの値段は、どう決めればよいでしょうか。持っている資産の合計——ではありません。会社の値打ちは将来稼ぐお金にあります。「将来のお金を今の値段に直して足す」——NPVで身につけた型が、そのまま会社の値付けに使えます。
ただし会社の寿命は5年では終わりません。「永遠」をどう計算に収めるか——そこに1つ、有名な罠が待っています。
会社の価値を、将来のキャッシュフロー予測からどう算出すればよいのでしょうか。
見通せる数年は個別に、その先は「毎年g%成長」とみなして一括します
DCF法の設計はこうです。向こう5年ほどは事業計画からフリー・キャッシュフロー(FCF)を1年ずつ個別に予測し、WACCで割り引きます。問題は6年目以降——永遠の未来を1年ずつ予測はできません。
そこで「6年目からは毎年g%で成長し続ける」とざっくり仮定して、その全部をひとまとめの値段にします。これがターミナルバリュー(TV・継続価値)です。中身は前のユニットで学んだ成長永続年金そのもの——「翌年のFCF÷(WACC−g)」で出ます。
TVは「n年後時点の値段」なので、もう一度割り引きます
手順は5歩です。①予測期間のFCFを予測 → ②WACCを算出 → ③各年FCFをWACCで割引 → ④TVを計算してこれもn年分割り引いて加算 → ⑤非事業資産を足し、有利子負債を引いて株式価値へ。
数値でTVを確かめます。6年目のFCF=60万円・WACC=8%・g=3%なら、TV=60÷(0.08−0.03)=60÷0.05=1,200万円(これは5年目末時点の値段なので、さらに(1.08)5で割り引いて現在価値にします)。
ここで異常値センサーを1つ。同じFCF=60でg=7%なら、TV=60÷0.01=6,000万円——gがWACCに近づくと分母が痩せ、TVが爆発します。gに市場成長を超える強気な数字を置いていないか、代入前に分母を見る癖をつけます。
TVの「割引き忘れ」と「gの暴走」が2大事故です
第一の事故は、TVをそのまま現在価値に足してしまうこと。TVは予測期間の最終年度末時点の値段です。(1+WACC)nでもう一度割り引かないと、企業価値を大きく過大評価します。
第二の事故はgの設定です。ゴードンの式と同じくWACC>gが前提。gがWACCとほぼ同じ・上回る与件で機械的に代入させ、爆発した数字を選ばせる——異常のセンサーは分母(WACC−g)そのものです。分母が1%を割る与件や、TVが予測期間のFCF合計の数十倍に達する計算結果は、代入前・提出前に疑ってください(なおTVが企業価値の過半を占めること自体は、健全な評価でも普通に起こります)。
「M&Aの話が来てるんだが、この提示額は妥当なのか」。買収価格の妥当性を聞かれたとき、DCFの構造——数年の個別予測+TV——を知っていれば、「提示額の大半がTV由来なら、その成長率の仮定を疑いましょう」と急所を突けます。相手の評価書を読む力は、この5歩の手順から生まれます。
冒頭の問いに答えます。企業価値=予測期間のFCFの現在価値合計+TVの現在価値。TVは成長永続年金(翌年FCF÷(WACC−g))で、n年分の割引きを忘れないこと。仕上げのユニットでは視点を裏返します——そもそも借金と株式の混ぜ方で、会社の価値は変わるのか。MM理論です。