MM理論 — ピザは切り方を変えても、大きさは変わりません
「借金を増やすと会社の価値は上がるのか、下がるのか」。直感はきっと「下がる」と言うでしょう。ところがファイナンス理論の出発点は、意外にも「変わらない」です。
この「変わらない」から出発して、税金を入れると「上がる」に変わり、倒産リスクを入れると「ほどほどが最適」に落ち着く——3段階の物語として覚えるのがMM理論です。
資金調達の株式と負債の混ぜ方(資本構成)は、会社の価値を変えるのでしょうか。
第1段階:税がなければ、切り方を変えてもピザは同じ大きさです
会社の価値の源は、事業が生むキャッシュフローというピザです。株式と負債は、そのピザを誰がどう切り分けるかの話にすぎません。4等分にしても8等分にしても、ピザそのものは大きくならない——だから税金のない完全な市場では、資本構成を変えても企業価値は変わらない。これがMM理論の第1命題です。
「借金を増やすと安い負債が増えてWACCが下がるのでは?」という直感には、こう答えます。借金が増えるほど株主のリスクは上がり、株主の要求リターンkₑがちょうど打ち消す分だけ上がる。混ぜ方を変えても、ブレンド単価(WACC)は動かないのです(第2命題)。
第2段階で「税」、第3段階で「倒産リスク」を入れます
税がある世界(第2段階)では結論が変わります。支払利息は経費になり税金を減らす——タックスシールドです。負債を使う会社(V_L)の価値は、無借金の会社(V_U)より節税効果の分だけ大きくなります。式はV_L=V_U+T×D(T=税率・D=負債額)。V_U=1,000万円・T=30%・D=400万円なら、V_L=1,000+0.3×400=1,120万円です。
この式を素直に読むと「借金は多いほど良い」になりますが、現実には借りすぎると倒産の危険とその周辺コスト(財務的困窮コスト)が膨らみます(第3段階)。節税の便益と困窮コストの綱引きで、ほどほどの負債水準=最適資本構成が決まる——これをトレードオフ理論と呼びます。
「税の有無」を確認せずに結論を選ばせるのが定番です
MM理論の出題は、どの世界の話かのすり替えに尽きます。「MM理論によれば、法人税が存在する場合でも資本構成は企業価値に影響しない」——誤りです(税ありならV_L=V_U+T×D)。逆に「税がない完全市場でも、負債の利用で企業価値は増加する」も誤り。問題文の「法人税を考慮しない/する」の一句を最初に丸で囲んでから肢を読みます。
第2命題の周辺では「負債を増やすとWACCが下がる(税なし世界で)」が罠。安い負債が増えても、kₑの上昇がそれを相殺してWACCは不変です。
「無借金経営が一番だと思ってるんだけど、どう思う?」。この経営哲学への助言に、MMの3段階はそのまま使えます。節税効果を捨てている面はないか、一方で借入余力という保険を残す価値はないか——「ほどほどの最適点は会社ごとに違う」と、便益とコストの両面から話せるのが診断士の付加価値です。
冒頭の問いに答えます。税がなければ混ぜ方は価値を変えず(ピザの切り方)、税があれば節税分だけ負債が価値を乗せ(V_L=V_U+T×D)、倒産リスクまで入れるとほどほどが最適になります。これで資本コストと企業価値の5ユニットが完結——CAPMでkₑ、WACCでブレンド、ゴードンとDCFで値付け、MMで資本構成。財務のファイナンス編を通しでドリルして得点源にしてください。