NPVの実戦 — 点差は「税金・運転資本・残存価値」で生まれます
NPVの式を知っている受験生どうしで、なぜ点差がつくのでしょうか。答えは、式ではなくCFの拾い方にあります。試験のNPV問題は「毎年のCF」を親切に与えてくれません。税金・減価償却・運転資本・設備の売却——散らばった材料から、自分でCFを組み立てさせます。
組み立ての手順は6ステップに固定できます。今日はその心臓部、税引後CFの1本の式から入ります。
税金や減価償却が絡むとき、毎年のキャッシュフローはどう計算すればよいのでしょうか。
減価償却費は「現金の出ない経費」。だから節税分だけCFにプラスです
減価償却費の性質を1つだけ押さえます。現金は1円も出ていかないのに、帳簿の利益を減らして税金を安くする。つまりCFの世界では、減価償却費そのものは痛くも痒くもなく、その節税効果だけがプラスに働きます。
数値で見ます。税引前CF500万円、減価償却費200万円、税率30%。税務上の利益は500−200=300万円、税金は300×0.3=90万円。手元に残る現金は500−90=410万円です。減価償却が大きいほど税金が減り、CFは増える——この向きを体で覚えます。
式は2通り、答えは1つ。6ステップの2番に置きます
いまの計算を式にすると2通りに書けます。どちらでも答えは同じです。
検算します。(500−200)×0.7+200=210+200=410万円。もう1本でも、500×0.7+200×0.3=350+60=410万円。一致しました。2本目の式の「減価償却費×税率」が、まさに節税効果(タックスシールド)の正体です。
NPV問題の全体は、この式を2番に置いた6ステップで解きます。①初期投資の特定(設備価格+据付費−旧設備の売却収入±売却損益の税効果)→②毎年の税引後CF(上の式)→③運転資本の増減(在庫・売掛金の増加分から買掛金の増加分を差し引いた正味額。増加は投資の追加、最終年度の回収はCFに加算)→④残存価値(売却額±売却損益の税効果)→⑤割引計算→⑥NPV算出。
落とすのはいつも同じ3か所です
採点で差がつく見落としは3つに集中します。第一に減価償却費の足し戻し忘れ——(税引前CF−減価償却)×(1−税率)で止めてしまい、+減価償却費を忘れる。第二に運転資本——初年度に増えた在庫や売掛金は現金を食う(投資の追加)のに、最終年度に回収されて戻ることまで含めて丸ごと無視してしまう。第三に残存価値の税効果——最終年度の売却額は拾えても、売却損益が税金を動かすことを忘れる。
帳簿価額100万円の設備を60万円で売れば、売却損40万円×税率30%=12万円の節税。最終年度のCFは60+12=72万円です。売却額だけ拾って税効果を落とすのが、3つ目の定番です。
「銀行に出す投資計画書、これでいいですか」。診断士が計画書をレビューするとき、減価償却の節税効果が抜けた計画は実際より保守的に、運転資本が抜けた計画は実際より楽観的に見えます。6ステップは試験のためだけでなく、計画書の抜け漏れを見つけるチェックリストとしてそのまま使えます。
冒頭の問いに答えます。税引後CF=税引前CF×(1−税率)+減価償却費×税率。減価償却は現金の出ない経費だから、節税分だけプラスです。これを6ステップの2番に置き、運転資本と残存価値の税効果まで拾えば、事例IV水準のNPVが組み上がります。最後のユニットでは、NPVとは別の物差し——IRRと回収期間法——を比べ、食い違ったときの答えを決めておきます。