投資の物差し — IRRと食い違ったら、NPVを信じます
「利回り50%の投資案」と「利回り12%の投資案」、どちらが良いでしょうか。即答したくなりますが、この問いには大事な情報が抜けています。いくら投資できるのか、です。
利回り50%でも投資できるのが10万円なら、儲けは今のお金で数万円です。利回り12%で1,000万円投資できるなら、儲けは数十万円になりえます。投資の物差しは1本ではありません。今日は3本の物差しを並べて、食い違ったときの答えを先に決めておきます。
IRR・回収期間法・NPVという3本の物差しは何が違い、結論が食い違ったらどれを信じるべきなのでしょうか。
IRRは利回り自慢、NPVは財布に残る額です
IRR(内部収益率)は「この投資の実質的な年利は何%か」を答えます。定義は、NPVがちょうど0になる割引率です。判断基準は、IRRが資本コスト(お金の調達コスト)を上回れば実行。
NPVは「この投資で会社の価値が今のお金でいくら増えるか」を円で答えます。%で語るのがIRR、円で語るのがNPV。普段は同じ結論を出しますが、複数の案から1つを選ぶ場面で食い違うことがあります。%の高さと、財布に残る額の大きさは、別の話だからです。
IRRには構造的な弱点が3つあります。だから最後はNPVです
IRRの弱点は好みの問題ではなく、構造的なものです。第一に、投資規模を無視します。10万円の案の50%と1,000万円の案の12%を、%の土俵でしか比べられません。第二に、再投資の仮定が楽観的です。IRR法は途中で回収したCFをIRR自身の高い利回りで再投資できると仮定しますが(NPV法は資本コストで再投資と仮定)、高利回りの再投資先が都合よく見つかる保証はありません。第三に、CFの符号が途中で変わる案(最後に撤去費用が出る等)ではIRRが複数解になりえます。
回収期間法は「初期投資が何年で戻るか」だけを見る素朴な物差しです。計算が速く直感的な一方、時間価値を無視し、回収後のCFも無視します。回収の速さは資金繰りの安心材料にはなりますが、儲けの大きさは測れません。
まとめると、判断基準はこうなります。単独の案の可否=NPV>0(IRR>資本コストでも通常は同じ結論)。相互排他的な案の比較=NPVが最大の案。回収期間法は補助の物差しに徹します。
「IRRが高い方を選ぶ」——比較問題ではそれが罠です
単独案の可否を問う問題では、IRR>資本コストとNPV>0は同じ結論を出すので、どちらで解いても正解です。罠が仕掛けられるのは2つの案を比べさせる問題。「IRRが高いA案を選ぶ」という選択肢は、投資規模の違いを無視させる定番の誤り筋です。比較と見たらNPVで並べ直す——これが手筋です。
回収期間法では「回収期間が短い=儲かる」のすり替えに注意。回収後に大きなCFが続く案ほど、回収期間法では不当に低く評価されます。
「知り合いから利回りのいい話が来てるんだけど、どう思う?」。経営者への助言で、%の高さだけが独り歩きしている場面は少なくありません。「その話、金額に直すといくら儲かるんですか」——IRRをNPVに引き戻す一言が、診断士の目利きです。%は魅力を語り、円は意思決定を支えます。
冒頭の問いに答えます。IRRは%で語る利回り、回収期間法は資金繰りの速さ、NPVは円で語る儲けの大きさ。単独の可否ならどれも似た答えを出しますが、案の比較で食い違ったら、財布に残る額——NPV——を信じます。これで投資の意思決定の骨格は完成です。ここまでの5ユニットを通しでドリルすれば、事例IVの入口に立てます。