設備投資と損益分岐点 — 変動費率が下がっても、分岐点は上がることがあります
手作業の工程を機械に置き換える提案が来たとします。「1個あたりの加工コストが下がりますよ」。それ自体は本当です。ただ、機械のリース料が毎月、売上に関係なく乗ってきます。
この投資で会社は「赤字になりにくく」なるのでしょうか。それとも逆でしょうか。実は、直感では決まりません。
固定費が増えて変動費率が下がるとき、損益分岐点は改善するのか悪化するのか、どう見分けるのでしょうか。
シーソーのどちらが勝つかは、計算するまで分かりません
機械化は、費用の構造を組み替える取引です。1個あたりの手間賃(変動費)を下げる代わりに、月々のリース料(固定費)を背負う。変動費が軽くなる力は分岐点を下げ、固定費が重くなる力は分岐点を上げます。2つの力は逆向きで、どちらが勝つかは金額次第です。
だから、この論点の解き方は1つしかありません。改善前と改善後、それぞれの損益分岐点を計算して、並べて比べることです。
改善前後の損益分岐点を、同じ式で2回計算します
使う式は基本形(固定費÷限界利益率)のままです。数値例で見ます。現在は固定費600万円、変動費率60%。損益分岐点は600万円÷0.4=1,500万円です。
ここに新設備の提案が来ました。固定費は200万円増えて800万円、変動費率は50%に改善します。改善後の損益分岐点は800万円÷0.5=1,600万円。1個あたりは安くなったのに、分岐点は100万円悪化しました。固定費の増加が、変動費率の改善を上回ったのです。
同じ提案でも、固定費の増加が100万円で済むなら、700万円÷0.5=1,400万円で、今度は100万円の改善です。数字が少し違うだけで結論が反転する。だから2回計算して並べる以外に、確実な方法はありません。
「変動費率が下がれば分岐点は必ず下がる」は誤りです
正誤問題の定番は、「変動費率が低下すれば損益分岐点売上高は必ず低下する」という言い切りです。「必ず」が付いた瞬間に誤りです。固定費が同時に増えるなら、分岐点はむしろ上がりうるからです。
逆向きの言い切り(「固定費が増加すれば分岐点は必ず上昇する」)は、変動費率が変わらなければ正しい文になります。どの変数が動いて、どの変数が固定されているか。設問の条件を1つずつ指差し確認するのが、この論点の作法です。
「機械を入れれば1個あたりは安くなりますよ」。設備営業の提案書には、分岐点の移動までは書かれていません。診断士がやるべきことは、提案の数字をこのシーソーに載せ直して、改善前後の損益分岐点と、想定販売量での利益を並べて見せることです。1個あたりの安さではなく、会社全体の損益構造で投資を評価する。それがこの式の実務での使い方です。
冒頭の問いに答えます。見分ける方法は「改善前後の損益分岐点を同じ式で2回計算して並べる」。それだけで、直感では決まらない勝敗が数字で決まります。次のユニットは、製品が複数あるときの分岐点。ここにも「単純平均」という名前の罠が待っています。