損益分岐点 — 固定費を「限界利益率」で割ります
ラーメン屋を開くとします。家賃とアルバイト代で、月に30万円。これは客が1人も来なくても出ていくお金です。ラーメンは1杯800円で、材料費は1杯につき300円かかります。
さて、月に何杯売れたら、この店は赤字を抜けられるでしょうか。この問いに1本の式で答えるのがCVP分析です。式は1本、落とし穴も1つだけです。
「いくら売れば赤字にならないか」は、どう計算すればよいのでしょうか。
1杯売るごとに、家賃が500円ずつ埋まっていきます
1杯800円のラーメンを1杯売ると、材料費300円が出ていき、手元には500円が残ります。この500円が、月30万円の家賃とアルバイト代を少しずつ埋めていきます。300,000円÷500円=600杯。600杯目でちょうど埋まり切り、601杯目からは1杯につき500円がまるごと利益になります。
この「1杯売るごとに残る500円」に、会計は名前を付けています。限界利益です。売上からラーメン1杯分の材料費のように売れた分だけ増える費用(変動費)を引いた残り、と言い換えられます。家賃のように売れなくても出ていく費用(固定費)は、この限界利益で埋めるしかありません。
式は1本です。固定費を、限界利益率で割ります
いま「杯数」で数えた話を「売上高」で言い直すと、試験で使う式になります。売上高のうち限界利益が占める割合を限界利益率と呼びます。ラーメン屋なら500円÷800円=0.625です。
限界利益率=限界利益÷売上高=1−変動費率。そして損益分岐点(BEP)は次の1本です。
数値例で確かめます。売上高1,000万円、変動費率60%、固定費300万円の会社を考えます。限界利益率=1−0.6=0.4。損益分岐点売上高=300万円÷0.4=750万円です。検算します。750万円×0.4=300万円で、固定費とちょうど一致しました。現在の営業利益は、1,000万円×0.4−300万円=100万円です。
下のグラフで、単価・変動費・固定費を動かすと分岐点がどう動くか、式と一緒に確かめられます。
分母に「変動費率」を入れてはいけません
この論点の誤答は、ほぼ1種類に集中します。固定費を限界利益率ではなく変動費率で割ってしまう誤りです。さきほどの例なら、300万円÷0.6=500万円。この選択肢は必ずと言ってよいほど並んでいます。
500万円が分岐点でないことは、検算で分かります。売上500万円のとき、変動費は300万円、固定費は300万円で、費用合計600万円。100万円の赤字です。検算の型=「出た答え×限界利益率が固定費と一致するか」。この10秒が、選択肢の罠を無力化します。
「うちは月にいくら売れたら食っていけるんですか」。顧問先でも創業相談でも、経営者のこの質問は最初に来ます。原価率(変動費率)と家賃・人件費(固定費)の2つを聞き取れば、損益分岐点はその場で計算できます。経営診断の入口で最初に置く数字が、この1本です。
冒頭の問いに答えます。「いくら売れば赤字にならないか」=固定費÷限界利益率。ラーメン屋なら600杯、月48万円の売上です。次のユニットでは、この式を半歩進めて「目標の利益を残すにはいくら売るか」を計算します。社長の言う目標は、たいてい「税引後」なのがポイントです。