安全余裕率とDOL — 崖までの距離と、近づくスピードを測ります
同じ売上1,000万円、同じ営業利益100万円の2社があるとします。翌年、どちらも売上が1割落ちました。片方の利益は80万円に、もう片方は10万円になりました。
同じ利益から出発したのに、片方は2割減、片方は9割減。この差は運ではなく、費用の中の「固定費と変動費の割合」から機械的に生まれます。そして、この差を測る物差しが2本あります。
売上の変化に対する利益の強さ・もろさは、どんな指標で測るのでしょうか。
崖までの距離と、崖に近づくスピードの2本立てです
損益分岐点は「ここを割ったら赤字」という崖です。1本目の物差しは、いまの売上がその崖からどれだけ離れているかという距離、安全余裕率です。
2本目は、売上が動いたとき利益が何倍の勢いで動くかというスピード、経営レバレッジ係数(DOL)です。固定費が重い商売(航空・鉄道のように、飛ばなくても維持費がかかる構造)は、売上のわずかな変化が利益を大きく揺らします。冒頭の「9割減」の会社は、こちらの構造です。
安全余裕率の分母は実際売上高、DOLはその逆数です
式を並べます。安全余裕率=(実際売上高−損益分岐点売上高)÷実際売上高。経営レバレッジ係数(DOL)=限界利益÷営業利益。そして両者にはDOL=1÷安全余裕率という関係があります。
数値例で通します。売上高1,000万円、変動費率60%、固定費300万円。限界利益は400万円、損益分岐点は300万円÷0.4=750万円、営業利益は100万円です。
安全余裕率=(1,000万円−750万円)÷1,000万円=25%。DOL=400万円÷100万円=4倍。逆数の関係も確かめると、1÷0.25=4で一致します。
DOL4倍の意味は「売上が1%動くと、営業利益は4%動く」です。売上が1割落ちれば利益は4割落ちる。実際、900万円×0.4−300万円=60万円で、たしかに100万円から4割減です。
分母を「損益分岐点売上高」にしてはいけません
安全余裕率の分母は実際売上高です。さきほどの例で分母を分岐点にすると、(1,000万円−750万円)÷750万円≒33.3%(小数第2位四捨五入)となり、正しい25%と別の数字が出ます。選択肢にはこの33.3%が並びます。
もう1つの紛れは、損益分岐点比率(=分岐点÷実際売上高=75%)との取り違えです。関係は単純で、安全余裕率+損益分岐点比率=100%。「余裕」と「比率」のどちらを聞かれているか、設問の語尾で確定させてから計算します。
「景気が悪くなったら、うちは持ちますか」。この不安に、感想ではなく数字で答えるための2本です。決算書から安全余裕率とDOLを出せば、「売上が◯%落ちるまでは黒字です。ただし1%の売上減が利益を◯%削る体質です」とその場で言えます。固定費の重い会社ほど、この2本目の数字が経営者の顔色を変えます。
冒頭の問いに答えます。強さ・もろさは「崖までの距離=安全余裕率」と「近づくスピード=DOL」の2本で測り、両者は逆数の関係にあります。これでCVP分析の主要5論点は一巡です。基本形の式(固定費÷限界利益率)が全ユニットの背骨だったことを、最初のユニットに戻って確かめてみてください。