ゴードン成長モデル — 育っていく仕送りの値段を1本の式で出します
投資の意思決定のユニットで、「毎年10万円を永遠にもらえる権利」の値段を割り算1回で出しました(永久年金=CF÷r)。では、もらえる額が毎年3%ずつ育っていくとしたら、権利の値段はどう変わるでしょうか。
答えは「分母を痩せさせる」です。この1手で、株価の理論値まで届きます。
配当が毎年一定率で成長し続けると仮定したとき、株価の理論値はどう計算するのでしょうか。
成長する分だけ、分母から成長率を引きます
永久年金の値段はCF÷rでした。受取額が毎年g%ずつ育つなら、値段は翌年のCF÷(r−g)に変わります。成長の分だけ分母が痩せて、値段は膨らむ——直感どおりの向きです。
株式にあてはめます。株主が受け取るCFは配当です。来年の配当D₁を、株主の要求利回りkₑから成長率gを引いたもので割る。これが配当割引モデル(ゴードン成長モデル)の株価です。来年の配当100円・要求利回り8%・成長率3%なら、100円÷(0.08−0.03)=2,000円。
分子のD₁が「来年」であることに、出題が集中します
式を正確に書きます。P₀=D₁÷(kₑ−g)、ここでD₁=D₀×(1+g)。分子は今年支払われた配当D₀ではなく、来年の配当D₁です。問題文が「当期の配当は100円で、翌期以降毎年4%成長する」と与えてきたら、分子は100円ではなく100×1.04=104円。この1段を飛ばさせるのが定番の罠です。
数値例をもう1本。D₀=100円・g=4%・kₑ=9%なら——D₁=104円、P₀=104÷(0.09−0.04)=104÷0.05=2,080円です。
この式が成り立つ前提も1行で押さえます。kₑ>g。成長率が要求利回り以上だと分母がゼロ以下になり、式は使えません(価値が無限大に発散する仮定になってしまうためです)。
「D₀のまま割る」と「g>kₑでも代入する」が2大事故です
第一の事故は分子です。D₀=100円をそのまま使うと100÷0.05=2,000円——さきほどの正解2,080円のすぐ隣に、もっともらしく並びます。「翌期以降成長」と読んだら、まず(1+g)を掛けてから割る。
第二の事故は分母の符号です。g=10%・kₑ=8%のような与件で機械的に代入すると、株価がマイナスという意味不明の答えが出ます。kₑ>gの確認は代入前の指差し確認——分母が痩せすぎ・マイナスの計算結果は、異常値センサーの出番です。
「うちの会社の株、いくらの値打ちがあるんだろう」。事業承継の入口で経営者が漏らすこの問いに、評価の考え方の骨格として答えられるのがこのモデルです。実際の非上場株式の評価は税務・会計の専門領域と連携しますが、「将来の配当力とリスクで値段が決まる」という構造を社長に見せる最初の一枚として、この式は今も現役です。
冒頭の問いに答えます。育つ配当の株価はP₀=D₁÷(kₑ−g)——分子は来年の配当、分母は要求利回りから成長率を引いて痩せさせる。この「(WACCやkₑ)−g」の分母は、次のユニットの主役でもあります。会社まるごとの値段を出すDCF法と、その終着駅ターミナルバリューです。