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財務・会計 / 資本コストと企業価値資本
資本コストと企業価値 1/5 / 約5分

CAPM — 波の1.5倍揺れる船には、1.5倍の見返りを要求します

国債なら利回り2%で、ほぼ確実に返ってきます。では、値動きの荒い株式に投資する人は、何%の見返りなら納得するでしょうか。「リスクが高いぶん高いリターンを」——ここまでは誰でも言えます。問題は、何%上乗せすれば妥当かを数字で答えることです。

その答えを出す道具がCAPMです。部品は3つ、式は1本です。

この5分の問い

リスクの高い株式に対して投資家が要求してよいリターンは、どうすれば理論的に計算できるのでしょうか。

直感でつかむ

βは「市場の波に対する揺れ幅」の感度です

株式市場全体を、大きな波だと考えます。個々の株は、その波に浮かぶ船です。市場が1%動いたとき、その株が何%動くか——この感度をβ(ベータ)と呼びます。β=1.5の小舟は波の1.5倍揺れ、β=0.5の大型船は半分しか揺れません。β=1なら市場とぴったり同じ動きです。

投資家が上乗せを要求するのは、この波と連動する揺れ(市場リスク)に対してだけです。その会社固有の事故や不祥事のようなリスク(個別リスク)は、たくさんの銘柄に分散投資すれば互いに打ち消せるので、理論上は見返りを要求できません。分散で消せないリスクにだけ、値段がつく——これがCAPMの思想です。

βの合言葉市場が1%動いたときの揺れ幅がβ。分散で消せない揺れにだけ上乗せがつく
厳密に見る

要求リターン=安全な利回り+β×市場の上乗せ分です

公式kₑ=r_f+β×(r_m−r_f) (r_f=リスクフリーレート、r_m=市場全体の期待リターン)

読み方はこうです。出発点は国債など安全資産の利回りr_f。そこに、市場全体がリスクの見返りとして持つ上乗せ分(r_m−r_f=マーケットリスクプレミアム)を、その株の揺れ幅βの倍率で積み増します。

数値で確かめます。r_f=2%、r_m=8%、β=1.5なら——kₑ=2%+1.5×(8%−2%)=2%+9%=11%。β=1.0なら2%+6%=8%で市場と同じ。β=0なら2%=安全資産と同じです。βを横軸、kₑを縦軸に取ると1本の直線になり、これを証券市場線(SML)と呼びます。

市場リスク(システマティック・リスク)は分散不可能でβが測る、個別リスク(アンシステマティック・リスク)は分散で消せる——この用語ペアも選択肢の常連です。

結論が反転する分かれ目
市場リスク
システマティック・リスク
市場全体と連動する揺れ。分散では消せない。βが測る
個別リスク
アンシステマティック・リスク
その会社固有の揺れ。分散投資で打ち消せる
分かれ目 値段(リスクプレミアム)がつくのは分散で消せない市場リスクだけ。「個別リスクにも上乗せを要求できる」とする肢は誤りです。
ここで間違える

プレミアムに掛けるβを、r_mそのものに掛けさせる罠があります

定番の誤り筋は式の組み替えです。kₑ=β×r_m(安全利回りを忘れる)、kₑ=r_f+β×r_m(プレミアムでなく市場リターン全体に掛ける)。さきほどの例なら誤答は1.5×8=12%や2+1.5×8=14%となり、正解11%の近くに紛れ込みます。βが掛かる相手は(r_m−r_f)——「上乗せ分に倍率」と覚えます。

もう1つは「β=0.5の株はリスクが小さいから、分散投資には不要」のような概念肢。βの大小と分散の効能は別の話で、個別リスクを消す分散の意義はβの値と関係なく成り立ちます。

実務では

「銀行の金利は4%なのに、投資家はなんでそんなに要求してくるんだ」。増資や出資受入れの相談で、経営者のこの疑問に答える語彙がCAPMです。株主のお金は返済順位が最後の、いちばん揺れにさらされるお金——だから要求リターンは金利より高くて当然。この一言が言えると、次のユニットの「資金のブレンド単価」の話が通じます。

確かめる — 予想してから答え合わせ
この5分のまとめ

冒頭の問いに答えます。要求リターン=r_f+β×(r_m−r_f)。安全な利回りに、市場の上乗せ分を揺れ幅βの倍率で積みます。これで「株主のお金のコスト」が数字になりました。次のユニットでは、これを借金のコストと混ぜ合わせて、会社全体の資金調達単価——WACC——を作ります。