行政指導 — 「お願い」を断ったことを理由に、罰してはいけません
マンションの建築確認を申請した会社が、区から「周辺住民と話し合いを続けてほしい」という行政指導を受け、確認処分を留保され続けました。指導は本来、任意の協力を求める「お願い」のはずです。最高裁は、事業者が指導に従わない意思を真摯かつ明確に表明した後は、指導への不協力を理由に確認を留保することは原則として違法だと判断しました(最判昭60.7.16)。
従う義務のない「お願い」に、法律はどんな歯止めをかけているのでしょうか。
断った客のレジを、止めてはいけません
店員のおすすめを断るのは客の自由です。断った客の会計を止めたら、それはもう「おすすめ」ではなく強制です。行政指導の規律は、この一点に集約されます。
行政指導は処分ではないので、取消訴訟の入口(処分性)からは原則こぼれます。だからこそ行政手続法は、指導の場面そのものに4つの歯止め(32・33・35・36条の2)を直接書き込みました。
32条が原則を、33条と35条が場面別の歯止めを置いています
定義から確認します。行政指導とは、行政機関が一定の行政目的を実現するため、特定の者に作為・不作為を求める指導・勧告・助言などで、処分に該当しないものをいいます(2条6号)。
行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現される…(32条1項) 行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。(同2項)
申請の場面には専用の歯止めがあります。申請の取下げや内容変更を求める行政指導では、申請者が従う意思がない旨を表明したにもかかわらず指導を継続するなどして、申請者の権利の行使を妨げてはなりません(33条)。冒頭の判例の規範が、この条文に写し取られています。
方式の歯止めも押さえます。指導する側は趣旨・内容・責任者を明確に示す義務があり(35条1項)、口頭の指導でも、相手方から求められれば原則として書面を交付しなければなりません(同3項)。さらに、法律に根拠のある是正の行政指導については、要件に適合しないと思う相手方が中止等を求める制度が平成26年改正で新設されました(36条の2)。
「実効性確保のための不利益取扱い」という言い訳は通りません
第一の手口は正当化です。「行政指導の実効性を確保するため、従わない者に不利益な取扱いをすることも許される」という肢は、32条2項の明文に反します。
第二は書面の否定です。「行政指導は処分ではないから、書面の交付を求めることはできない」は誤りです。口頭の指導でも、求められれば原則交付です(35条3項)。
第三は範囲の誇張です。「あらゆる行政指導について中止等の求めができる」は誤りで、対象は法律に根拠規定のある是正指導に限られます(36条の2)。要綱や条例だけに基づく指導は対象外です。
「役所からのお願いって、断れるものなんですか」という相談は現場で多いものです。答えの型はこのユニットのとおりで、従うかどうかは任意、断っても不利益取扱いは禁止、口頭なら責任者と根拠を書面で求められる、と順に示せます。申請の審査が指導を理由に止まっているように見えるときは、従わない意思を明確に文書で表明する、という次の一手まで含めて設計します。
答えです。歯止めは任意性の原則と不利益取扱いの禁止(32条)、不協力表明後の継続の禁止(33条)、方式と書面交付(35条)、中止等の求め(36条の2)の4段です。最後のユニットでは、この法律が「どこまで届くか」という適用範囲の線引きを見ます。