理由の提示 — 「5号に該当する」だけでは、理由になりません
海外渡航のための旅券(パスポート)の発給を申請した人に、外務大臣から拒否の通知が届きました。理由の欄にはただ一行、「旅券法13条1項5号に該当する」。どの事実がどう当てはまったのかは、どこにも書かれていません。最高裁は、この一行を理由の記載として不十分だと判断しました(最判昭60.1.22)。
処分の理由は、どこまで書かれていて初めて「理由」になるのでしょうか。
「総合的に判断しました」では、次の一手が打てません
不採用の通知に「総合的に判断した結果」とだけあっても、応募者は何を直せばよいのか分かりません。理由を示させる目的は、行政の判断を慎重にさせること、そして相手に争うための足場を渡すことです。足場にならない理由は、書いてあっても理由と数えません。
判例は2つ見ます。1つは条文番号の引き写しを退けた旅券の事件、もう1つは公表された処分基準との対応を求めた建築士の事件です。
判例は「記載自体から了知できるか」で線を引きました
条文はどちらも「同時に、理由を示さなければならない」とだけ定めています(申請拒否=8条、不利益処分=14条)。どこまで書くかの線は、判例が引いてきました。
旅券の事件で最高裁は、いかなる事実関係に基づき、いかなる法規を適用して拒否したのかを、申請者が記載自体から了知しうるものでなければならないとしました。条文番号を写すだけでは、この水準に届きません(最判昭60.1.22)。
一級建築士の免許取消しの事件では、処分基準が公にされていたのに、そのどの基準をどう適用したのかが示されていませんでした。最高裁は理由提示の要件を満たさない違法な処分として取消しを認めました(最判平23.6.7)。理由の不備は、処分の中身に立ち入る前に、それだけで処分を取り消させる力を持ちます。
なお8条には但書があります。要件や審査基準が数量的指標などで客観的に明確で、申請がそれに適合しないことが申請書類から明らかな場合は、求めがあったときに示せば足ります。14条の但書は「差し迫った必要がある場合」で、その場合も処分後相当の期間内に示す義務が残ります(14条2項)。
「根拠条文が書いてあれば足りる」は、判例が正面から否定しています
第一の手口はそのままです。「処分の根拠条文を示せば理由の提示として十分」という肢は、旅券の判例の結論と逆です。適用法規と事実関係の両方が要ります。
第二の手口は効果のすり替えです。「理由提示に不備があっても、処分の内容が正しければ処分は適法」という肢は誤りです。建築士の判例は、理由の不備という手続の違法だけで処分の取消しを導きました。
第三は但書の削除です。「いかなる場合も処分と同時に理由を示さなければならない」は誤りです。8条・14条それぞれに但書があります。
「処分の通知が来たんですが、理由が一行しかなくて」という相談は、それ自体が争点になります。理由の記載が判例の水準に届いていなければ、内容の当否に踏み込む前に手続違法を主張できます。依頼者の処分通知書を最初に見るとき、金額や期限だけでなく理由欄の厚みを見る。この習慣が付くと、通知書一枚から打ち手が増えます。
答えです。理由は、適用した法規と基礎となった事実関係が記載自体から読み取れる程度まで書かれていなければならず、処分基準が公にされていればその適用関係まで必要です。ここまでが「処分の前後」のルールでした。次は、処分ですらない行政の道具——行政指導に法律がかけた歯止めを見ます。