取消判決の効力 — 勝っても、自動的に許可は出ません
許可の申請を断られた人が取消訴訟で勝ち、判決が確定した、としましょう。翌日から何が起きるでしょうか。実は、自動的に許可が出るわけではありません。それでも確定した取消判決は、3つの力で状況を動かし始めます。
3つの力は、性質も向き先も別々です。ここを区別せずにまとめて覚えると、択一でも記述でも足をすくわれます。
取消判決が確定すると、処分・行政庁・第三者のそれぞれに何が起きるのでしょうか。
処分が消える、役所が縛られる、蒸し返せなくなる
先に、名前を使わずに起きることを並べます。第一に、取り消された処分は、はじめからなかったことになります。メッセージアプリの「送信取消」を思い浮かべてください。自分と相手の間だけでなく、全員の画面から消えます。第二に、役所は判決の趣旨に縛られます。差し戻された稟議と同じで、同じ理由で同じ起案をもう一度通すことはできません。第三に、同じ争いを裁判で蒸し返すことができなくなります。
条文にあるのは32条と33条、既判力は書かれていません
3つの力のうち、行訴法に姿があるのは2つです。まず、処分が消える力(形成力)の広がりを32条が定めます。
処分又は裁決を取り消す判決は、第三者に対しても効力を有する。(行訴法32条1項)
取消しの効果が当事者の間にとどまらない、という意味で、これを第三者効と呼びます。次に、役所を縛る力です。
処分又は裁決を取り消す判決は、その事件について、処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する。(同33条1項)
拘束力の中身がいちばん具体的に現れるのが33条2項です。申請を拒否した処分が取り消されたときは、行政庁は判決の趣旨に従い、改めて申請に対する処分をしなければなりません。放置は許されず、申請のやり直しも不要です。ただし、判決が違法とした理由と別の理由で再び拒否することまでは、禁じられていません。
最後の蒸し返し禁止(既判力)には行訴法の明文がなく、民事訴訟の一般原則として働きます。棄却判決が確定すれば、同じ処分の違法をもう一度主張して争い直すことはできません。
拘束力は「必ず認容せよ」ではありません
最頻出の誤りはこれです。「拒否処分が取り消された場合、行政庁は必ず申請を認容する処分をしなければならない」。拘束力が禁じるのは同一理由による同一処分の繰り返しで、別の理由による拒否はありえます(33条)。
「取消判決の効力は訴訟当事者の間にとどまる」という肢は、32条の明文に反します。
拘束力と既判力の混同も定番です。既判力は裁判の蒸し返しを禁じる訴訟法上の効力で行訴法に明文がなく、拘束力は行政庁の次の行動を縛る効力で33条に明文があります。「拘束力は行訴法に規定がない」という肢は誤りです。
「勝ちました。許可はいつ出ますか」と聞かれたら、33条2項から説明します。役所には改めて応答する義務があり、申請をやり直す必要はありません。一方で、別の理由による再拒否の可能性は残るため、判決がどの理由を違法としたのかを依頼者と確認します。そのうえで、次の応答に向けて申請内容のどこを補強するか。ここからが許認可を扱う行政書士の本業です。
取消判決は、処分を第三者との関係でも消し(形成力・32条)、行政庁を判決の趣旨で縛り(拘束力・33条)、争いの蒸し返しを禁じます(既判力)。ただし、この仕組みでも「してほしい処分」そのものは手に入りません。次のユニットで、その最後の隙間を埋める訴訟を見ます。