執行停止 — 訴えても、処分は止まりません
営業停止3か月の処分を受けた事業者が、取消訴訟を起こした、としましょう。判決までには通常、月単位から年単位の時間がかかります。勝訴したころに停止期間が終わっているのなら、裁判の意味は大きく目減りしてしまいます。
それなら訴えた時点で処分は止まってほしいところですが、法律は逆の原則を明文で置いています。この5分で見るのは、その原則と、止めるための1つの手続、その手続に付いた2段の要件です。
裁判の決着を待つあいだに処分の実行を止めるには、何が必要なのでしょうか。
異議を言っても、引き落としは止まりません
クレジットカードの請求に心当たりがないとき、カード会社に問い合わせただけでは、その月の引き落としは予定どおり実行されるのが普通です。止めたければ、調査や停止の手続を別枠で取ってもらう必要があります。取消訴訟と処分の関係も、これと同じ形です。
そして「止める決定」は簡単には出ません。止めるべき事情(積極要件)と、止めてはいけない事情(消極要件)の2段でふるいにかけられます。
25条は「止まらない」から書き始めています
条文の順序が、そのまま考え方の順序です。まず1項が原則を宣言します。
処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。(行訴法25条1項)
そのうえで2項が例外の入口を開きます。読みどころは「重大な損害」と「緊急の必要」の二語です。
…処分…により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、…執行停止…をすることができる。(同2項)
重大な損害かどうかの判断では、損害の回復の困難の程度が考慮され、損害の性質・程度と処分の内容・性質も勘案されます(3項)。そして要件がそろっても、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、または本案について理由がないとみえるときは、することができません(4項・消極要件)。
この制度には、他に例のない仕組みが1つ付いています。内閣総理大臣が異議を述べると、裁判所は執行停止ができず、すでに決定していたときは取り消さなければなりません(27条4項)。異議はやむをえない場合に限られ、述べたときは次の常会で国会に報告する義務があります(同6項)。
「訴えれば止まる」も「要件を満たせば必ず止まる」も誤りです
第一の手口は原則の反転です。「取消訴訟の提起があったときは、処分の執行は停止される」という肢は、25条1項の明文に反します。申立てと裁判所の決定が必要です。職権で行うという肢も誤りです(「申立てにより」)。
第二の手口は例外の削除です。「要件を満たせば執行停止は必ず認められる」は誤りです。4項の消極要件が残っています。
第三の手口は古い文言です。現行の要件は「重大な損害」です。「回復の困難な損害」は2004年改正前の文言で、いまは3項の考慮要素に位置が変わりました。旧文言のまま要件として書かれた肢に注意してください。
最後に、内閣総理大臣の異議があっても裁判所は独自に停止できる、という肢も誤りです(27条4項)。
「裁判で争うあいだ、営業は続けられますか」という質問には、このユニットの区別がそのまま答えになります。訴えの提起と執行停止の申立ては別の手続で、止まらないのが原則です。処分の効力が続くかどうかで資金繰りも従業員の処遇も変わるため、この前提を最初に正しく伝えられるかどうかが初動の助言の質を決めます。訴訟と申立ての実行は弁護士の領分なので、事実関係と資料の整理を済ませて引き継ぎます。
答えは、申立てと、それを認める裁判所の決定です。訴えただけでは処分は止まりません。次のユニットでは、待った末に勝訴したとき、その判決が持つ3つの力を見ます。