操業停止点 — 家賃は閉めても返ってこないから、赤字でも開ける日があります
たこ焼き屋が赤字です。閉めるべきでしょうか——実は「赤字なら閉める」は経済学的に早合点です。家賃は店を閉めても返ってきません。売上が材料費さえ上回るなら、開けて家賃の一部を稼いだ方が、閉めるよりマシなのです。
「続ける・赤字でも開ける・直ちに閉める」の3択を分ける2本の線——損益分岐点と操業停止点です。
赤字でも操業を続けるべき場合と、直ちに停止すべき場合は、何を基準に見分けるのでしょうか。
比べる相手は「材料費を回収できるか」です
3つの状態を並べます。①価格が平均費用(AC)以上——固定費まで全部賄えて黒字、続ける。②価格がACには届かないが、平均変動費(AVC)以上——赤字だが開ける。売上が材料費を上回る分(お釣り)で、どうせ払う家賃の一部を埋められるからです。③価格がAVC未満——作るほど材料費すら回収できず損が膨らむ。直ちに停止。
2つの点の定義と、供給曲線の正体を固定します
損益分岐点=ACの最低点(P=AC_min。利潤ちょうどゼロ)。操業停止点=AVCの最低点(P=AVC_min。ここを下回ったら操業しない)。どちらもMC曲線が「底を貫く」点として図に現れます。
この整理から、試験の頻出命題が出ます——個別企業の短期供給曲線は、操業停止点より上のMC曲線です(価格が決まれば P=MC まで作るが、AVC_minを下回る価格では作らない)。長期では固定費も回収できなければ退出するので、長期の供給は損益分岐点より上の部分になります。
数値で1回。P=80円・AC=100円・AVC=70円なら——ACには届かないがAVCは上回る(70≦80<100)ので、赤字だが操業継続。P=60円ならAVC未満で停止です。
「赤字なら直ちに操業停止すべき」が看板の罠です
この論点の出題は、②の帯(AVC≦P<AC)を消しにきます。「価格が平均費用を下回ったら操業を停止すべき」——誤り。停止の基準はACではなくAVCです。固定費はサンクコスト(もう戻らない)——行動経済学で学んだサンクコストの罠を、生産者理論は「固定費は判断に入れない」という形で正しく処理しています。
もう1つは点の取り違えです。損益分岐点=ACの最低点、操業停止点=AVCの最低点。2つの「最低点」を入れ替える肢が対で並びます。
「赤字続きだから、もう店を畳もうと思って」。この相談でまず確かめるのは、赤字の中身です。変動費は回収できているか——できているなら、撤退よりも固定費の圧縮(家賃交渉・設備売却)や売上テコ入れが先です。閉めても消えない費用と、閉めれば消える費用の仕分けは、撤退判断の助言の第一歩です。
冒頭の問いに答えます。停止の基準はACでなくAVC——材料費さえ回収できるなら赤字でも開け(家賃の一部を稼げる)、AVCを割ったら直ちに停止。損益分岐点=ACの底、操業停止点=AVCの底、供給曲線=停止点より上のMC。次のユニットは競争のない世界——独占が「高くて少ない」を選ぶ理由と、その社会的コストです。