独占 — もう1個売るには全部を値下げ。だから「高くて少ない」を選びます
町に1軒しかないガソリンスタンドは、値段を自分で決められます。それでも「できるだけ高く・できるだけ多く」は叶いません。もう1台分売るには、価格を下げるしかない——そして下げた価格は、すでに売っている全部に適用されるからです。
この「全部値下げの重り」が、独占の生産量と価格、そして社会の損失を決めます。
独占企業はなぜ完全競争より「高くて少ない」を選び、それは社会にどんな損失を生むのでしょうか。
もう1個の収入は、価格より必ず小さくなります
独占企業がもう1個売ると、その1個の売上(価格P)は入りますが、販売済みの全部の値下げ分が差し引かれます。だから限界収入MRは価格Pより常に小さい——グラフでは、MR曲線が需要曲線の2倍の傾きで落ちていきます(線形需要P=a−bQならMR=a−2bQ)。
利潤最大化のルールは競争企業と同じMR=MCですが、MRが早く落ちる分、生産は完全競争より少なく、価格は高くなります。作られなかった取引のぶんの余剰は誰の手にも渡らず消える——余剰分析で学んだ死荷重が、独占の社会的コストです。
線形需要で1回解き切り、完全競争との差まで数字にします
需要P=100−Q、限界費用MC=20(一定)とします。独占:MR=100−2Q=20 → Q=40、価格はP=100−40=60。P(60)>MC(20)——価格が限界費用を上回るのが独占の目印です。
完全競争なら:P=MC → 100−Q=20 → Q=80、P=20。独占は競争に比べ、数量が80→40へ半減し、価格が20→60へ跳ねました。死荷重=(1/2)×(60−20)×(80−40)=800——消えた40単位分の取引の余剰です。
独占力の物差しも1本。ラーナー指数 L=(P−MC)/Pは、需要の価格弾力性εの逆数(1/ε)に等しく、値が大きいほど独占力が強い——弾力的な市場(逃げ場のある客)ほど、値上げ余地は小さくなります。
MRを需要曲線と同じ傾きで引かせる肢が定番です
計算問題の罠はMRの傾きです。P=100−QのままMR=MCと置くと(100−Q=20)、Q=80——完全競争の答えが出てしまいます。独占のMRは傾き2倍(100−2Q)。「MR=需要曲線」と混同させる選択肢が、正解のすぐ隣に並びます。
概念側では「独占企業は価格を無限に高くできる」型の肢。需要曲線という制約の上でしか選べない(高くすれば売れる量が減る)——選べるのは需要曲線上の1点だけです。
「うちの商品、実質このエリアでは独占なんだよね。値上げできるかな」。ラーナー指数の発想がそのまま使えます。顧客に逃げ場(代替品・他エリア調達)があるほど弾力性は高く、値上げ余地は小さい——「独占っぽさ」ではなく顧客の代替可能性から値付け余地を測るのが、価格戦略の診断です。
冒頭の問いに答えます。独占は「もう1個売るには全部値下げ」の重りでMRが需要の2倍の傾きで落ち、MR=MCの結果として完全競争より高くて少ない(数値例では価格60対20・数量40対80・死荷重800)。次のユニットは、市場が失敗するもう1つの型——価格に映らないコストと便益、外部性と公共財です。