フィリップス曲線 — インフレで失業を買えるのは、短期だけです
景気を熱くすれば失業は減る。その代わり物価が上がる——インフレと失業率の間には「あちらを立てればこちらが立たず」の関係が観察されてきました。ならば、インフレを我慢すれば失業をずっと低く抑えられるのでしょうか。
経済学の答えは「短期はイエス、長期はノー」。この時間差が、フィリップス曲線の出題のすべてです。
インフレと失業率のトレードオフはなぜ短期にしか成立せず、長期には何が起きるのでしょうか。
人々が「インフレが来る」と学習した瞬間、取引は無効になります
短期:インフレ政策で景気が熱くなると、企業は人を雇い、失業率は下がります——右下がりの短期フィリップス曲線です。ところが働く人たちはやがて学習します。「物価が上がるなら、給料も上げてもらわないと損だ」。
賃上げが物価に追いつくと、実質的には何も変わらず、雇用の追い風は消えます。失業率は元の水準(自然失業率)へ戻り、インフレだけが残る——長期フィリップス曲線は自然失業率の位置で垂直です(フリードマンらの自然失業率仮説)。
無理に押し下げ続けると、インフレが加速します
自然失業率より低い失業率を政策で維持しようとすると何が起きるか——人々の期待インフレが毎期切り上がり、それを上回るインフレを次々と打たなければならない。加速主義(アクセラレーショニスト)の帰結です。インフレを加速させない失業率の下限はNAIRU(インフレ非加速的失業率)と呼ばれ、概念上は自然失業率に対応します。
さらに先鋭な立場が合理的期待学派(ルーカスら)です。人々が体系的な誤りを犯さないなら、予想された政策は短期ですら実体経済に効かない(政策無効命題)——効くのは予想外のショックだけ。期待の織り込み方(適応的期待か合理的期待か)で、政策の効き目の結論が変わる——ここが学説対比の出題ポイントです。
「長期にもトレードオフが残る」と言わせる肢が定番です
「長期フィリップス曲線は右下がりであり、インフレの許容によって失業率を恒常的に引き下げられる」——誤り。長期は自然失業率で垂直、インフレだけが残ります。短期と長期の取り違えが、この論点の出題のほぼ全部です。
用語側では、自然失業率を「失業率ゼロ」と読ませる肢に注意。摩擦的・構造的失業は好況でも残る——自然失業率はゼロではありません。
「人手不足って言うけど、賃上げすれば人は来るの?」。労働市場の相談では、ミスマッチの型の見極めが効きます。景気変動によるものなら待遇と採用強化で届きますが、スキルや仕事内容の構造的なミスマッチは賃上げだけでは埋まらない——原因が「景気」か「構造」かで、打ち手は待遇改善か、育成・仕事の再設計かに分かれます。
冒頭の問いに答えます。インフレと失業のトレードオフは、期待が追いつくまでの短期限定——長期には失業率は自然失業率へ戻り、曲線は垂直、無理に押し下げればインフレが加速します(合理的期待なら短期すら効かない)。最後のユニットは市場の「形」の総整理——完全競争の長期と、ラーメン屋街の独占的競争です。