期待理論 — やる気は3つの掛け算、1つでもゼロなら全部ゼロです
バイト先で「今月の売上1位になったら3万円ボーナス」と言われました。やる気が出るかどうか、実は3つの問いで決まります。①頑張れば1位に届きそうか。②1位になったら本当に3万円もらえるのか。③そもそも3万円が欲しいか。
どれか1つでも「ノー」なら、やる気はゼロ——足し算ではなく掛け算だからです。これがヴルームの期待理論です。
人が「頑張ろう」と思う強さは、何によって決まるのでしょうか。
期待×手段性×誘意性——掛け算だから1つのゼロが全体を消します
動機づけの強さは3つの積で決まります。期待(Expectancy)——努力すれば成果に届くという見込み。手段性(Instrumentality)——成果が報酬に確実につながるという見込み。誘意性(Valence)——その報酬自体の魅力。
掛け算である点がこの理論の急所です。どんなに報酬が魅力的でも(誘意性が高くても)、「どうせ達成できない」(期待ゼロ)なら動機づけはゼロ。「達成しても払われない気がする」(手段性ゼロ)でもゼロ。3拍子が揃って初めて、人は動きます。
3要素の定義と、ポーター&ローラーの修正モデルまで押さえます
3要素の定義を精密に——期待=努力→業績の主観的確率、手段性=業績→報酬のつながりの見込み、誘意性=報酬の主観的な魅力。「努力→業績」と「業績→報酬」という2つの矢印のどちらの話かで期待と手段性を区別します。
ポーター&ローラーは、これを努力→業績→報酬→満足の因果モデルに拡張しました(修正期待理論)——満足が先にあって頑張るのではなく、業績と報酬の結果として満足が生まれるという順序の逆転が特徴です。
「3要素は足し算」と、期待・手段性の矢印の混同が定番です
定番の誤り肢は「期待・手段性・誘意性の合計(足し算)で動機づけが決まる」——誤り、掛け算です。足し算なら1つがゼロでも他で補えますが、掛け算では補えない——「どうせ無理」の一言がやる気を全消しする現実と符合します。
期待と手段性の取り違えにも注意——「努力すれば業績が上がる見込み」は期待、「業績を上げれば報酬がもらえる見込み」は手段性。矢印の位置(努力→業績か、業績→報酬か)で判定してください。
歩合や表彰制度が「機能していない」会社は、3要素のどこかが切れています。目標が高すぎて「どうせ届かない」(期待切れ)、評価基準が曖昧で「頑張っても報われるか分からない」(手段性切れ)、報酬が現金一律で「別に欲しくない」(誘意性切れ)——どこが切れているかを特定すれば、制度全体を作り直さなくても直せることが多いのです。
冒頭の問いに答えます。やる気の強さは期待(努力→業績)×手段性(業績→報酬)×誘意性(報酬の魅力)の掛け算で決まり、1つでもゼロなら全体がゼロになります(ポーター&ローラーは努力→業績→報酬→満足へ拡張)。マズローの階層・ハーズバーグの2要因と合わせ、動機づけ理論の3点セットが揃いました——組織論の残り(リーダーシップ・組織文化・変革)へ続きます。