意思表示の瑕疵 — 嘘の見破りやすさで、守られる第三者が変わります
AとBが示し合わせて、税金対策のために「土地を売った」という契約書だけを作りました(実際は無償のままです)。そうとは知らない善意のCが、Bからその土地を買ってしまいました。Aは「あれはヤラセだ、無効だ」と言ってCから土地を取り戻せるのでしょうか。答えは意思表示の種類によって変わり、その分かれ目は「嘘がどれだけ見破りやすいか」という一点にあります。
意思表示に欠陥があるとき、後から現れた第三者はどこまで保護されるのでしょうか。
示し合わせたヤラセは見破りやすく、巧妙な一人芝居は見破りにくいのです
2人が示し合わせた虚偽表示(94条)は、いわば狂言のヤラセです。当事者の意図が一致しているため、後から見ても分かりやすい類型で、法は無効としつつ、そうとは知らない第三者は善意でさえあれば保護します(無過失は不要)。これに対し詐欺(96条)は、一人が巧妙に相手を騙す一人芝居です。見破りにくい分、保護される第三者のハードルは上がり、善意無過失が必要です。
脅されて言うことを聞いただけの強迫の被害者はどうでしょう。脅された側には落ち度がまったくないので、法は誰も——たとえ善意無過失の第三者であっても——優先させません。
2017年改正が、錯誤と詐欺の扱いを動かしました
心裡留保(93条)は、本心でない意思表示をしたとき、相手方が善意無過失なら表示どおりの効力を認め、相手方が悪意または有過失なら無効とします。ただし善意の第三者には対抗できません(93条2項)。
虚偽表示(94条)は当事者間で無効ですが、善意の第三者に対抗できません(94条2項、無過失は不要)。虚偽の外観を作出した本人の帰責性が大きいため、保護のハードルが低く設定されています。
錯誤(95条)は2017年改正の目玉です。無効から取消しに変更されました。表示錯誤(95条1項1号)と動機の錯誤(95条1項2号、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限る=95条2項)の2類型があり、表意者に重大な過失があるときは原則として取消しを主張できませんが、相手方が悪意・重過失のとき、または相手方も同一の錯誤に陥っていたとき(共通錯誤)は例外的に主張できます(95条3項各号)。第三者保護は善意無過失です(95条4項)。
詐欺(96条)は取消しで、第三者保護は96条3項により善意無過失に強化されました(2017年改正前は善意のみで足りました)。第三者による詐欺の場合は、相手方が悪意または有過失のときに限り取消しができます(96条2項)。強迫(96条)も取消しですが、第三者保護規定はありません——脅された被害者を最優先で保護する設計です。
錯誤の「無効」表記と、詐欺の「善意だけで足りる」が定番の誤りです
第一の手口は改正前の亡霊です。「錯誤による意思表示は無効である」は誤りです。2017年改正で取消しに変わりました(95条)。
第二の手口は保護要件の緩和です。「詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者であれば無過失でなくても対抗できる」は誤りです。2017年改正で善意無過失に強化されました(96条3項)。
第三の手口は強迫への保護の混入です。「強迫による意思表示の取消しも、善意無過失の第三者には対抗できない」は誤りです。強迫には第三者保護規定がありません。
「不動産の売買で、実は税金対策の見せかけの契約でした」という相談は虚偽表示そのものです。行政書士としては、こうした仮装契約書の作成に加担しないことが第一で、依頼者が既に締結した契約の効力を尋ねてきた場合は、無効の主張が善意の第三者には対抗できないという限界を正確に伝えます。「錯誤」「詐欺」「強迫」のどれに当たるかで争い方も第三者との関係も変わるため、契約書作成の相談時点で事案の分類を誤らないことが最初の仕事です。
答えです。虚偽表示は善意だけで第三者を保護し、錯誤・詐欺は善意無過失を要求し、強迫は誰も保護しません。嘘の見破りやすさが保護の厚さを決めています。次は、この意思表示を代わりに行う仕組み——代理です。