制限行為能力者と催告権 — 「返事をしない」は不利になります
契約更新の案内に「異議のお申し出がない場合は自動的に更新されたものとみなします」と書かれているのを見たことがあるはずです。返事をしないことに、法律上の意味を持たせる仕組みです。未成年者や成年被後見人と契約してしまった相手方を守るために、民法にも同じ発想の制度があります。ただし向きが逆で、返事をしないと相手に有利な結果になります。
制限行為能力者と契約してしまった相手方は、どうやって自分の身を守れるのでしょうか。
確答なしは「追認とみなす」——取消とみなす、ではありません
未成年者・成年被後見人・被保佐人・被補助人という制限行為能力者を保護する制度の裏側には、取引の相手方を守る仕掛けが2つあります。1つ目が催告権(20条)です。相手方は、1か月以上の期間を定めて「追認するか取り消すか、はっきりしてください」と迫ることができ、期間内に確答がなければ追認したもの、つまり契約は有効に確定したとみなされます。
2つ目が詐術の規定(21条)です。制限行為能力者が「自分は行為能力者だ」と相手を信じさせる術策を用いていた場合、その人はもう取消しを主張できません。保護に値しない振る舞いをした本人からは、保護を取り上げる設計です。
4類型は、保護者と取消権者の対応で覚えます
制限行為能力者は4類型です。未成年者(5条、保護者は親権者・未成年後見人)、成年被後見人(7条〜、保護者は成年後見人・原則としてすべての法律行為を取り消せる)、被保佐人(11条〜、保護者は保佐人・重要な財産行為に同意権)、被補助人(15条〜、保護者は補助人・家庭裁判所が定めた特定の行為にのみ同意権)。後見・保佐・補助の順に、本人の判断能力への制約は軽くなり、保護者の関与も限定されていきます。成年年齢は18歳です(4条、平成30年法律第59号・2022年4月1日施行)。
催告権(20条)の相手先には注意が要ります。相手方が単独で追認できる者(成年後見人や成年に達した本人)に催告した場合、確答がなければ追認とみなされます。これに対し、被保佐人・被補助人本人に対して、保佐人・補助人の同意を要する行為について催告した場合は、期間内にその旨の通知を発しないときは、その行為を取り消したものとみなされます(20条4項)——本人への催告だけは、確答なしの結論が逆転する例外です。
詐術(21条)の対象は「行為能力者であることを信じさせるため」の積極的な術策で、単に黙って行為能力者と偽らなかっただけ(単なる沈黙)は詐術に当たらないとするのが判例の立場です。
「確答なし=取消」という逆方向の誤りが定番です
第一の手口は擬制の向きの反転です。「制限行為能力者の法定代理人への催告に対し確答がなかったときは、取り消したものとみなされる」は誤りです。原則は追認とみなすです(20条1項〜3項)。ただし被保佐人・被補助人本人への催告だけは取消し擬制になる例外があり(20条4項)、これを原則側に混同させる肢にも注意してください。
第二の手口は詐術の範囲の拡大です。「単に自分が行為能力者であることを黙っていただけでも、詐術に当たり取消権を失う」は誤りです。詐術は積極的な術策を要し、単なる沈黙では足りません。
第三の手口は保護者の権限の混同です。「被補助人は、日常の買い物を含むすべての法律行為について補助人の同意が必要」は誤りです。被補助人の場合、同意を要する行為は家庭裁判所が個別に定めた特定の行為に限られます。
「認知症の疑いがある方と契約してしまったのですが」という相談は、まず本人が成年後見等の対象になっているかの確認から始まります。制度を利用していなければ、意思能力の有無という別の土俵での争いになり得ることも伝えます。契約書作成の依頼段階で相手方に判断能力の懸念があるときは、契約前に成年後見制度の利用状況を確認する助言が、後の紛争を防ぐ実務動作です。
答えです。相手方は催告権で返事を迫れ、確答なしは原則追認とみなされます。制限行為能力者の側も、詐術を使えば保護を失います。次は、意思表示そのものに欠陥がある場面——虚偽表示・錯誤・詐欺・強迫です。