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民法 / 総則総則
総則 3/5 / 約5分

代理 — 権限があって悪用するのと、権限がないのに気づかれないのは、別問題です

会社の営業担当者が、社員証を持ったまま、私的な借金のために取引先を騙して契約させたとします。会社は責任を負うのでしょうか。似た場面でも、社員証がすでに失効していたのに誰も気づかなかった場合はどうでしょう。前者は「権限はあるが悪用した」場面、後者は「そもそも権限がない」場面——民法はこの2つを別の条文で処理します。

この5分の問い

代理人が本人のためにならない行為をしたとき、本人はどこまで責任を負うのでしょうか。

直感でつかむ

権限の悪用と、権限そのものの不存在は別の話です

社員証を持ったまま私的に濫用する場面が代理権濫用(107条)です。代理権自体はあるのに、自己または第三者の利益のために使われました。相手方が悪意または過失があるときに限り、無権代理とみなされます(=原則は本人に効果が及ぶ)。一方、社員証が失効していたのに周囲が気づかない場面が表見代理(109条・110条・112条)です。代理権は最初からないか、すでに消えているのに、相手方が善意無過失でそれを信じた場合、本人が責任を負います。

代理の軸代理権濫用=権限はあるが悪用(107条)。表見代理=権限がないのに信じられた(109・110・112条)。いずれも相手方の善意(無過失)が鍵。
厳密に見る

表見代理は3類型、無権代理には固有の相続判例があります

表見代理3類型はいずれも相手方の善意無過失が要件です。代理権授与の表示による表見代理(109条、実際には代理権を与えていないのに与えた旨を表示した場合)、権限外の行為の表見代理(110条、基本代理権はあるがその範囲を超えた場合)、代理権消滅後の表見代理(112条、かつてあった代理権が消滅した後の行為)。109条と110条は重畳適用され得ます(最判昭45.7.28、代理権授与の表示があり、かつその範囲を超えた行為の場合)。

自己契約・双方代理(108条)は原則禁止で無権代理とみなされますが、本人があらかじめ許諾した行為と、単に債務を履行するだけの行為は許されます。2017年改正で、代理人と本人の利益が相反する行為も同様に無権代理とみなされる規定が加わりました(108条2項)。

復代理の選任要件は本人と法定代理人で異なります。任意代理人は本人の許諾またはやむを得ない事由がなければ選任できません(104条)。法定代理人は自己の責任でいつでも選任できますが、やむを得ない事由で選任したときに限り選任・監督についての責任を負います(105条)。

無権代理と相続には3つの判例があります。無権代理人が本人を単独で相続した場合、無権代理行為は当然に有効となります(最判昭40.6.18、信義則上、自ら追認拒絶することは許されない)。無権代理人が他の相続人と共同で相続した場合は、共同相続人全員が追認しない限り、無権代理人の相続分についても当然には有効となりません(最判平5.1.21)。一方、本人が追認拒絶をした後に死亡し、無権代理人が相続した場合は、拒絶の効果がすでに確定しているため有効にはなりません(最判平10.7.17)——単独相続か共同相続か、本人自身の追認拒絶が死亡前にあったかどうかが分かれ目です。

結論が反転する分かれ目
代理権濫用
107条
代理権はあるが自己・第三者の利益目的。相手方悪意・有過失なら無権代理とみなす
表見代理
109・110・112条
代理権がない(消滅した)のに、相手方が善意無過失で信じた。本人が責任を負う
分かれ目 「権限そのものの有無」で条文が変わる。悪用は107条、不存在は109〜112条。
ここで間違える

「権限の悪用」と「権限の不存在」を取り違える肢が定番です

第一の手口は類型の混同です。「代理人が代理権の範囲内で自己の利益のために行為をした場合、常に表見代理として本人に責任が生じる」は誤りです。これは代理権濫用(107条)の場面であり、相手方が悪意・有過失なら無権代理とみなされます。

第二の手口は相続判例の反転です。「無権代理人が本人を単独で相続した場合、無権代理人は追認を拒絶することができる」は誤りです。信義則上、追認拒絶は許されず当然に有効となります(最判昭40.6.18)。ただし共同相続では全員の追認が必要(最判平5.1.21)、本人が追認拒絶後に死亡した事案(最判平10.7.17)は有効になりません——3つの判例を単独/共同/拒絶後死亡で区別してください。

第三の手口は復代理選任要件の入れ替えです。「法定代理人は、本人の許諾かやむを得ない事由がなければ復代理人を選任できない」は誤りです。これは任意代理人の要件(104条)で、法定代理人はいつでも選任できます(105条)。

実務では

「委任状を渡した相手が、勝手に別のことをしていました」という相談は、代理権濫用か表見代理かの見立てから始めます。委任状の記載範囲を超えていれば表見代理(110条)の相手方保護の問題、範囲内での悪用なら代理権濫用(107条)の問題です。行政書士が委任状を作成する実務では、代理権の範囲を具体的に限定して記載することが、後日の紛争予防に直結します——「一切の件」という白紙委任的な文言は避けるべき典型です。

確かめる — 予想してから答え合わせ
この5分のまとめ

答えです。権限があるのに悪用されたら代理権濫用(107条)、権限がないのに信じられたら表見代理(109・110・112条)——どちらも相手方の善意(無過失)が本人の責任を分けます。次は、時間の経過が権利をどう動かすか——時効です。