連帯債務 — 「全員に効く」出来事は、4つだけです
2020年4月に施行された民法改正で、連帯債務のルールは大きく書き換えられました。それまでは、連帯債務者の1人に請求すれば全員に請求したことになり、時効を止める効果まで全員に及ぶとされていました。改正はこの「1人への請求=全員への請求」を削りました。
いま全員に効く出来事は、4つだけです。この4つの選び方に、はっきりした理屈があります。
連帯債務者の1人に起きた出来事は、他の連帯債務者にも効くのでしょうか。
借金そのものが消える出来事だけが、全員に効きます
4つの顔ぶれを見ると理屈が分かります。弁済(と代物弁済・供託)、更改(古い債務を新しい債務に作り替える合意)、相殺、混同(相続などで債権者と債務者が同一人になること)。どれも借金そのものが消える、または作り替わる出来事です。債務自体が消えた以上、誰との関係でも消えたと扱うほかありません。
一方、催促(請求)や「君はもう払わなくていいよ」(免除)は、債権者とその人の間の話にすぎません。債務自体は残っているので、他の債務者には及ばない——これが相対的効力です。
相殺の条文は、1項と2項で主語が違います
連帯債務では、債権者はどの債務者に対しても、全部または一部の履行を請求できます(436条)。そのうえで絶対的効力の各条文が続きます。更改(438条)、相殺(439条)、混同(440条)、それ以外はすべて相対的効力(441条本文。ただし債権者と他の連帯債務者の1人が別段の意思を表示すれば、その間では絶対的効力にできます)。
注意が要るのは相殺(439条)です。1項と2項で場面が違います。反対債権を持つ連帯債務者本人が相殺を援用したときは、債権は全ての連帯債務者の利益のために消滅します(1項・絶対的効力)。本人が援用しない間は、他の連帯債務者はその人の負担部分の限度で履行を拒むことができるだけです(2項)。他人の債権を使って相殺を援用することはできません。
払った後の精算が求償です(442条1項)。連帯債務者の1人が弁済して共同の免責を得たときは、その額が自己の負担部分を超えるかどうかにかかわらず、各自の負担部分の割合に応じて他の債務者に求償できます。2017年改正で明文化されたルールで、「負担部分を超えた分しか求償できない」は現行法では誤りです。求償の前後には他の債務者への通知義務があります(443条)。
「請求は全員に効く」は、もう正しくありません
第一の手口は旧法の亡霊です。「連帯債務者の1人に対する履行の請求は、他の連帯債務者に対しても効力を生ずる」は誤りです。請求は相対的効力になりました(441条)。免除・時効の完成も同じく相対的効力です。
第二の手口は相殺の主語のすり替えです。「反対債権を持つ連帯債務者が相殺を援用しない間、他の連帯債務者はその債権で相殺を援用できる」は誤りです。他人の債権で相殺はできず、負担部分の限度で履行を拒絶できるにとどまります(439条2項)。
第三の手口は求償の絞り込みです。「弁済額が自己の負担部分を超えない限り、求償できない」は誤りです。超えるかどうかにかかわらず、割合に応じて求償できます(442条1項)。
「ペアローンを組んだまま離婚するんですが、支払いはどうなりますか」という相談で、この知識が地図になります。請求が相対的効力でも、返済が滞れば債権者はどちらにも全額請求できることは変わりません。離婚協議書の作成では、住宅ローンの借換えや金融機関との調整(免責的債務引受など)の要否を必ず確認事項に載せる——「協議書に書けば債権者に効く」わけではない、という説明がいちばん大事な一言になります。
答えです。全員に効くのは債務そのものが消える・作り替わる4系統(弁済・更改・相殺・混同)だけで、請求・免除・時効の完成はその人限りです。次は、他人の債務を背負うもう1つの形——保証。連帯債務との似て非なる設計を見ます。