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行政法 / 行政行為と裁量行政
行政行為と裁量 3/5 / 約5分

職権取消しと撤回 — 返品か、解約か。効き目の向きが違います

実子あっせん(あっせんした他人の子を実子として届け出させる行為)を公表した産婦人科医に対し、医師会が優生保護法上の指定医師の指定を取り消した事件がありました。指定の後に生じた事情を理由とする、講学上の撤回です。法令に撤回できるという明文はありませんでした。それでも最高裁は、この撤回を適法としました(最判昭63.6.17)。

この5分の問い

職権取消しと撤回は何が違い、撤回はどこまで自由にできるのでしょうか。

直感でつかむ

最初から欠陥なら返品、事情が変わったなら解約です

買い物にたとえると、職権取消しは返品です。最初から欠陥(成立時の瑕疵)があったので、取引をなかったことにする——効果は過去に遡ります。撤回は解約です。契約自体は正しく結ばれたが、その後の事情で続けられなくなった——やめるのはこれから先だけ(将来効)です。

区別の軸理由が成立時の瑕疵なら職権取消し(遡及)、後発的事情なら撤回(将来効)。

条文用語ではどちらも「取消し」と書かれることがあるため、試験では理由と効き目の向きで見分けます。名前ではなく中身です。

厳密に見る

撤回に、法令上の直接の明文は要りません

職権取消しは、違法状態を正す作用なので、処分の根拠規定そのものに含まれると考えられ、特別の法的根拠は不要とされています。監督庁による取消しの可否については学説上の議論があります(本試験ではここまで踏み込まれることはまれです)。

撤回はどうか。冒頭の判例が答えました。指定医師の指定という授益的な処分でも、公益上の必要が相手方の不利益を上回るときは、法令上直接の明文の根拠がなくても撤回できる(最判昭63.6.17)。撤回の権限は、処分権限に伴うものとして扱われます。

ただし無制限ではありません。授益的処分の職権取消し・撤回は、相手方の信頼の保護公益上の必要の比較衡量で制約されます。年金の支給決定のように相手が生活の基盤にしている処分を、軽い理由で遡って消すことは許されません。不利益処分を消す方向(相手に有利な方向)の見直しには、この制約は基本的に働きません。

結論が反転する分かれ目
職権取消し
返品型(成立時の瑕疵)
効果は遡及。違法状態の是正なので特別の根拠は不要
撤回
解約型(後発的事情)
効果は将来のみ。明文の根拠は不要(最判昭63.6.17)だが信頼保護の制約
分かれ目 条文上はどちらも「取消し」と書かれうる。理由と効き目の向きで見分ける。
ここで間違える

「撤回には法律の根拠が必要」が最頻出の誤り肢です

第一の手口は根拠の要求です。「撤回は、法令にこれを認める明文の規定がある場合に限り許される」は誤りです(最判昭63.6.17)。

第二の手口は効き目の向きです。「撤回の効果は処分時に遡る」は誤りで、撤回は将来に向かって効力を失わせます。遡るのは職権取消しです。

第三の手口は無制限化です。「授益的処分も、行政庁はいつでも自由に職権で取り消すことができる」は誤りです。相手方の信頼保護との比較衡量という制約があります。

実務では

許認可を得た依頼者への助言で、この区別は「守りの地図」になります。取得後も要件を維持し記録を残す(撤回事由を作らない)、更新や変更の際に虚偽があれば遡って消される(職権取消し)——どちらの向きのリスクかを分けて説明できると、コンプライアンス助言が具体的になります。処分を受けた側から見れば、「取消し」の通知が来たとき、理由が成立時か後発かで争い方の組み立ても変わります。

確かめる — 予想してから答え合わせ
この5分のまとめ

答えです。成立時の瑕疵→職権取消し(遡及)、後発的事情→撤回(将来効)。撤回に明文は不要ですが、授益的処分では信頼保護との比較衡量が縛りになります。次は、処分に付けられる「ただし書き」——附款です。