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行政法 / 行政行為と裁量行政
行政行為と裁量 5/5 / 約5分

行政裁量 — 裁判所は採点をし直さず、枠を外れたかだけを見ます

在留期間の更新を申請した外国人研究者が、日本での政治活動などを理由に更新を拒否されました。更新を認めるかどうかは、法務大臣の広い裁量に委ねられています。では裁判所は、この判断にどこまで口を出せるのか——裁量統制の基本枠組みを示したのが、マクリーン事件(最大判昭53.10.4)です。

この5分の問い

行政の裁量判断を、裁判所はどんな物差しで審査するのでしょうか。

直感でつかむ

面接の点数は付け直さない。枠を外れたかだけ見る

採用面接の評価に「正解」はなく、評価者に幅(裁量)があります。裁判所の役割は、その面接を自分でやり直して点数を付け替えることではありません。評価が許された枠を外れていないかだけを外から見ます。

審査の軸裁判所が取り消せるのは、裁量権の範囲の逸脱または濫用があった場合だけ(行訴法30条)。

枠を外れたと言えるのは、たとえば判断が全く事実の基礎を欠くとき、社会通念上著しく妥当性を欠くとき、考慮すべきことを考慮せず・考慮すべきでないことを考慮したとき(考慮不尽・他事考慮)です。

厳密に見る

30条が入口を、判例が物差しを提供します

行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる。(行訴法30条)

物差しの使われ方を3つの判例で見ます。マクリーン事件(最大判昭53.10.4)は、在留期間更新の判断における法務大臣の広範な裁量を認めたうえで、判断が全く事実の基礎を欠くか、社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかな場合に限り違法となる、という枠組みを示しました(結論は適法)。

神戸税関事件(最判昭52.12.20)は公務員の懲戒処分について、懲戒権者の裁量を認め、社会観念上著しく妥当を欠く場合に限って違法とする同型の枠組みで、処分を維持しました。

一方で枠を外れた例が剣道実技拒否事件(最判平8.3.8)です。信仰上の理由で剣道実技を拒否した学生への原級留置・退学処分について、代替措置の検討などを欠いた判断は考慮すべき事項の考慮を欠くとして、裁量権の逸脱を認めました。裁量は広くても、判断の過程が問われるのです。

結論が反転する分かれ目
枠内(適法)
マクリーン/神戸税関
広範な裁量を前提に、社会通念上著しく妥当性を欠くとまでは言えない
枠外(違法)
剣道実技拒否(最判平8.3.8)
代替措置の検討を欠くなど、考慮すべき事項の考慮を欠いた
分かれ目 広い裁量でも、判断の過程は問われる。
ここで間違える

「裁量だから審査できない」と「裁量でも全面審査」の両極が誤りです

第一の手口は審査の全面否定です。「裁量処分は司法審査の対象とならない」は誤りです。逸脱・濫用があれば取り消せます(30条)。

第二の手口は逆で、「裁判所は、裁量処分の当・不当についても審査し、より妥当な処分に変更できる」も誤りです。裁判所が見るのは違法(枠の外)だけで、当・不当の審査は行政内部(審査請求)の守備範囲です。

第三の手口は判例の結論の入れ替えです。マクリーン・神戸税関は裁量の枠とされた例、剣道実技拒否は枠とされた例。肯定例と否定例のセットで持ってください。

実務では

許認可の拒否に不服の依頼者へ、「役所の判断がおかしい」をそのまま主張しても勝てません。効くのは枠の外れ方の指摘です——考慮されるべき事情(依頼者の個別事情)が検討された形跡があるか、無関係な事情が混ざっていないか。理由提示のユニットで学んだ「理由欄の厚みを見る」目が、ここで裁量統制の入口探しに変わります。

確かめる — 予想してから答え合わせ
この5分のまとめ

答えです。裁判所は裁量判断をやり直さず、逸脱・濫用(事実の基礎・社会通念・考慮の過程)だけを審査します(30条)。これで行政行為の一生——効力・瑕疵・消し方・付け足し・裁量——が一巡し、行政法の選抜論点はすべてユニット化されました。ドリルで固めて、次の科目へ進んでください。