行政行為の効力 — 間違った処分も、赤伝を切るまでは生きています
会社の経理で、誤発注の伝票が見つかったとします。間違いだと分かっていても、その伝票を勝手に破り捨てることはできません。赤伝(取消伝票)という正規の手続で消すまで、帳簿の上では生きた伝票として扱われます。行政の処分も、これと同じ設計です。
この5分では、行政行為が持つとされる効力を4つ、なかでも試験の主役である公定力を確かめます。
違法な処分が「取り消されるまで有効」として扱われるのは、なぜでしょうか。
窓口ごとに有効・無効の判断がバラけたら、行政は止まります
もし「違法だと思う人は従わなくてよい」なら、処分の効力は受け手ごとにバラバラになり、行政は一歩も進めません。そこで法は、効力を否定する正規の窓口(取消訴訟・審査請求・職権取消し)を決め、そこで取り消されるまでは何人もひとまず有効として扱う、という交通整理を選びました。これが公定力です。
残る3つも顔だけつないでおきます。争える期間が過ぎると争えなくなる不可争力(出訴期間の裏面)、審査請求の裁決など一度した判断を行政庁自身が覆せなくなる不可変更力、義務の内容を裁判なしに実現できる場合がある自力執行力(法律の根拠がある場合に限る)です。
公定力は条文の言葉ではなく、制度の影です
「公定力」と書かれた条文はありません。行訴法が取消訴訟という専用の出口(3条)と締切(14条)を用意したことの反射として、「取り消されるまでは有効に扱うほかない」という効力が導かれます。だから公定力の限界も、制度の趣旨から決まります。
第一の限界が無効の行政行為です。瑕疵が重大かつ明白なら、正規の窓口を通さなくても効力を否定できます(次のユニット)。
第二の限界が国家賠償です。賠償請求は処分の効力を消す訴えではないので、公定力とぶつかりません。処分の取消判決を得ていなくても、違法を理由とする国賠請求はできます(最判平22.6.3・過大な固定資産税の事案)。「公定力があるから、取消訴訟の前に賠償は求められない」という肢は誤りです。
もう1つ、自力執行力には注意書きが要ります。処分ができることと、義務を実力で実現できることは別で、強制執行には別途の法律の根拠(行政代執行法など)が必要です。
「適法だから有効」ではなく「取り消されるまで有効」です
第一の手口は根拠のすり替えです。「公定力は、行政行為が適法であることを推定させる効力である」という肢は誤りです。適法性の推定ではなく、違法でもひとまず有効として扱う効力です。
第二の手口は射程の広げすぎです。「公定力があるため、国家賠償請求の前提として取消判決が必要」は誤りです(最判平22.6.3)。賠償と取消しは別の土俵です。
第三の手口は執行力の混同です。「行政行為には当然に自力執行力が認められる」は誤りで、強制執行には別途の法律の根拠が必要です。
「この処分、明らかにおかしいので無視していいですか」という相談には、公定力の説明が最初の仕事になります。おかしくても、正規の窓口で消すまでは有効に扱われ、無視すれば不利益が積み上がります。だからこそ期限管理と手続選択(審査請求・取消訴訟)が急所になる——これまでのユニットで学んだ救済の地図は、公定力という前提の上に載っていたわけです。
答えです。取消しの窓口を独占させる制度設計の反射として、処分は正規の手続で取り消されるまで有効に扱われます。ではその例外——手続を待たずに「最初から無い」と扱われる処分とは何か。次のユニットです。