国賠1条 — 職務の外形があれば、国が賠償します
非番の警察官が、制服を着て職務質問を装い、通行人から金品を奪って殺害した事件がありました。勤務時間外で、動機は純然たる私欲です。それでも最高裁は、国家賠償の場面では外形を基準にしました。客観的に職務執行の外形を備えていれば、国・公共団体が賠償責任を負います(最判昭31.11.30)。
公務員の行為について国が賠償するのは、どんな要件がそろったときでしょうか。
制服を着ていたら、会社の顔です
会社員が名刺を切って商談の場でしたことは、本人の内心がどうであれ、相手から見れば会社の行為です。国家賠償法1条の「職務を行うについて」も同じ発想で、行為者の意図ではなく外から職務に見えるかで切ります。被害者からは公務員の内心など見えないからです。
1条は過失責任です。そして「公権力の行使」の範囲は驚くほど広く、行政の処分だけでなく、立法や規制権限の不行使まで入ってきます。
条文は1つ、射程は判例が広げてきました
国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。(国家賠償法1条1項)
射程を3方向に確認します。第一に立法です。立法行為・立法不作為も1条の対象になりえます。ただし違法と評価されるのは例外的で、在宅投票制度の廃止では否定され(最判昭60.11.21)、在外邦人の選挙権制限では立法不作為として初めて肯定されました(最大判平17.9.14)。
第二に不作為です。規制権限の不行使も、権限を定めた法令の趣旨に照らして著しく不合理と認められるときは違法になります(宅建業者の監督懈怠・最判平元.11.24は否定例)。
第三に取消訴訟との関係です。処分の違法を理由とする国家賠償請求は、あらかじめ取消判決を得ていなくても提起できます(最判平22.6.3・過大な固定資産税の賦課の事案)。賠償は処分の効力を消す訴えではないので、公定力とぶつからないからです。
「立法は対象外」「取消判決が先」——どちらも誤りです
射程を狭める手口がまず来ます。「立法行為は国家賠償の対象とならない」は誤りです。対象にはなります。違法となる場面が例外的なだけです。「規制権限の不行使は違法となることはない」も誤りで、著しく不合理な不行使は違法になりえます。
手続の手口も定番です。「国家賠償請求をするには、あらかじめ処分の取消判決を得なければならない」は誤りです(最判平22.6.3)。
責任の性質のすり替えにも注意してください。「1条の責任は無過失責任である」は誤りです。過失を要しないのは、次の次のユニットで見る2条のほうです。
「役所のミスで損をしました。取り返せますか」という相談では、期限の切迫度がまず違います。取消訴訟は6か月ですが、国家賠償は民法の消滅時効の枠で考えられ、取消判決も前提になりません。救済の選択肢を時間軸で並べ直して、どの土俵で戦うかを整理する。行政書士は訴訟代理はできませんが、この見取り図を最初に描けるかどうかで、依頼者が失う時間が変わります。
冒頭の問いに答えます。公権力の行使に当たる公務員の、職務の外形を備えた行為が、故意・過失によって違法に損害を与えたとき、国・公共団体が賠償します。では、ミスをした公務員本人には請求できるのでしょうか。次のユニットです。