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行政法 / 正義感の罠正義
正義感の罠 1/3 / 約5分

正義感の罠 — 法は、ときどき常識を裏切ります

「ミスをした公務員本人にも、責任を取らせられるはずだ」。そう考えて誤り肢を選んだとき、足りなかったのは知識ではありません。素朴な正義感が、条文より先に答えを出してしまったのです。出題者はこの心理をよく知っていて、誤り肢を「そうあってほしい結論」の形で書いてきます。読んだ瞬間に頷きたくなる肢ほど、危ないのです。

この5分の問い

正義感が先に答えを出してしまう場所を、どうやって先回りして塞げばよいのでしょうか。

直感でつかむ

法は感情の代弁者ではなく、交通整理です

法律は「悪い者が罰され、かわいそうな者が救われる」物語をなぞる装置ではなく、社会全体の交通整理です。だから、個々の場面では感情に沿わない割り切りをためらいません。そして割り切りには、必ず制度側の理由があります。

回避の軸直感に反する結論は、出題の的。「裏切りリスト」を理由ごと予習して、頷きそうになる場所に印を付けておく。

つまり対策は、頷きやすい自分を責めることではなく、法が常識を裏切る場所の一覧を先に持っておくことです。行政法の主要な裏切りを、理由ごと並べます。

厳密に見る

行政法の「裏切りリスト」——結論と、割り切りの理由

裏切り①「本人には請求できない」。公務員個人は、被害者に対して賠償責任を負いません(最判昭30.4.19)。理由は被害者救済の確実化(資力のある国に窓口を一本化)と公務の萎縮防止。感情の行き場は、故意・重過失のときの内部求償(国賠法1条2項)に用意されています。

裏切り②「違法なのに、負ける」。処分が違法でも、取り消すと公の利益に著しい障害が出るなら請求は棄却されえます(事情判決・行訴法31条)。ただし法も無傷では裏切りません。主文で違法を宣言する義務が付きます。

裏切り③「勝ったのに、許可は出ない」。拒否処分の取消判決が確定しても、自動的に許可されるわけではありません。行政庁が負うのは改めて応答する義務で(行訴法33条2項)、別の理由による再拒否はありえます。

裏切り④「議会が不承認でも、有効」。専決処分が議会で承認されなくても、処分の効力は失われません(自治法179条)。議会制への裏切りに見えますが、処分を信頼した第三者を守るための割り切りです。

裏切り⑤「1日遅れたら、どんな事情でも」。住民訴訟の出訴期間30日は不変期間で、正当な理由の救済がありません(自治法242条の2)。他の期間に但書があるからこそ、この例外は的になります。

裏切り⑥「悪人のツケを、国が払う」。非番の警察官が制服で犯した強盗殺人でも、職務の外形があれば国が賠償します(最判昭31.11.30)。加害者の悪性ではなく被害者の救済から設計されているからです。

結論が反転する分かれ目
直感の答え
「本人に責任を」「違法なら取消し」
誤り肢はこの形で書かれる。読んだ瞬間に頷きたくなる
法の割り切り
窓口の一本化・公益・取引安全
理由ごと覚えた裏切りだけが安全に使える
分かれ目 頷きたくなったら、リストの何番かを先に確認。
ここで間違える

裏切りリストの暗記だけだと、逆向きに刺されます

このリストを「意外な結論集」として結論だけ覚えると、今度は逆の誤りを犯します。「法は常識を裏切るものだ」と思い込み、常識どおりの正しい肢(「違法な処分は取り消される」が原則です)まで疑って切ってしまうのです。

裏切りには必ず理由がありました。被害者救済の確実化、公益への配慮、取引安全。理由ごと覚えている裏切りだけが、安全に使える裏切りです。理由を言えないものは、リストに入れないでください。

実務では

この一覧は、実務では依頼者への説明リストそのものです。「担当者本人を訴えたい」「勝ったのになぜ許可が出ない」——依頼者の感情は、受験生時代のあなたが誤り肢に頷いたのと同じ場所で動きます。裏切りの理由を丁寧に翻訳して渡せることが、法律専門職の信頼の中身です。

確かめる — 予想してから答え合わせ
この5分のまとめ

答えです。正義感が先に答えを出す場所は決まっているので、裏切りリストを理由ごと予習し、本番で頷きそうになったら「これはリストの何番か」を先に確かめる。下のドリルで、頷かない練習をしてください。