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行政法 / 判例の引力判例
判例の引力 1/3 / 約5分

判例の引力 — 名前で答えると、決め手が抜け落ちます

「勧告」の二文字を見た瞬間、病院開設中止勧告の判例が頭に浮かび、「勧告には処分性がある」を選ぶ。この誤答の原因は、判例を知らないことではなく、判例を知っていることです。有名判例は名前と結論だけが強く結びついて残り、「なぜその事案ではそうなったか」という決め手が抜け落ちる。出題者は、その抜け落ちた決め手の部分だけを差し替えた事案を出してきます。

この5分の問い

有名判例の記憶を、誤答製造機ではなく武器にするには、どう覚え直せばよいのでしょうか。

直感でつかむ

有名人の名前は、顔より先に口から出ます

よく知っている名前ほど、反射で出てきます。そして反射で出た答えは、検査を経ていません。判例の記憶が「名前→結論」の直結になっていると、決め手の違う別事案にも同じ結論を当てはめてしまいます。

回避の軸判例は「名前→結論」ではなく「決め手→結論」で持つ。有名判例ほど、その事案だけの特殊事情を言えるようにする。

つまり有名判例を思い出したら、それは検査開始の合図です。「目の前の事案に、あの判例の決め手はあるか」——この一問を挟むだけで、引力は武器に変わります。

厳密に見る

「その判例が例外である理由」ごと覚え直します

病院開設中止勧告(最判平17.7.15)。決め手は「勧告だから」ではありません。勧告に従わないと保険医療機関の指定が事実上受けられなくなるという、制度の連動が退路を断っていたからです。原則の側はむしろ逆で、行政指導である勧告は相手方の任意の協力を前提とし(行手法32条)、処分性は認められないのが出発点です。「勧告→処分性あり」と一般化した瞬間、この判例の記憶は誤答製造機になります。

土地改良事業の認可(最判平4.1.24)。「工事完了→訴えの利益消滅」という一般化(建築確認・開発許可の系列)の側に引かれると、この判例で誤ります。決め手は、認可が換地処分など後続手続の法的な土台として生き続けること。原状回復が社会通念上不可能でも、利益は消えませんでした。

在外邦人選挙権(最大判平17.9.14)。「立法不作為→国賠は否定」という在宅投票判例(最判昭60.11.21)の引力に任せると、この肯定例で誤ります。決め手は、選挙権という民主主義の根幹が長期にわたり制限されたことでした。原則(否定)と、例外を開いた決め手をセットで持ちます。

覚え直しの型はこうです。有名判例1つにつき、①原則はどちら側か、②この判例はその原則の側か例外の側か、③例外なら決め手は何か、の3点を言えるようにする。名前と年月日はその後でかまいません。

結論が反転する分かれ目
名前→結論
「勧告といえば処分性あり」
反射は速いが検査を経ない。決め手の違う事案で誤答する
決め手→結論
「保険指定と連動して退路を断つから、あり」
思い出すのは一拍遅いが、別事案に安全に適用できる
分かれ目 有名判例が浮かんだら検査開始の合図。「この事案に決め手はあるか」を挟む。
ここで間違える

「有名判例=例外」と覚えるのも、また引力です

この方法を雑に使うと、「有名なやつはだいたい例外なんでしょう」という新しい反射が生まれます。それも引力です。原則の側の有名判例もあります(用途地域の指定に処分性なし・最判昭57.4.22は原則側の確認です)。

もう1つの注意は、決め手の過剰な一般化です。病院勧告の決め手(制度の連動)を「不利益がありそうなら処分性あり」とゆるめて覚えると、また別の誤答が生まれます。決め手は判例が言った幅のまま、狭く持つのが安全です。

実務では

実務の相談でも同じ引力が働きます。「知り合いの件では争えたらしい」と、有名な成功例を自分の事案に重ねて来られる依頼者に、「あの件はここが特殊だったんです」と決め手の違いを説明できるかどうか。判例を決め手で持つ習慣は、そのまま依頼者の期待値を正確に調整する技術になります。

確かめる — 予想してから答え合わせ
この5分のまとめ

答えです。判例は「決め手→結論」で持ち直し、有名判例が頭に浮かんだら「目の前の事案にその決め手はあるか」を一問挟む。下のドリルは、引力に逆らう判定の訓練です。名前に釣られずに答えてください。