工事完了 — 終わった工事でも、争える処分と争えない処分があります
建物の工事がいったん完成してしまえば、その前提だった確認や許可を争っても、後の祭りに見えます。実際、建築確認と開発許可については、工事の完了とともに訴えの利益は消えるとされました。
ところが土地改良事業では、工事がすべて終わり、農地が宅地に変わり、元に戻すことが社会通念上不可能になってもなお、認可を争う利益は残るとされました。同じ「工事完了」なのに、なぜ結論が逆になるのでしょうか。
工事が終わった後も「争う意味」が残るのは、どんな処分でしょうか。
その処分が「役目を終えたか」で分かれます
入場チケットと会員証の違いを考えてみてください。入場チケットは、会場に入った瞬間に役目を終えます。会員証は、持っているあいだずっと、他のサービスを受ける前提であり続けます。
建築確認は「工事を始めてよい」という入場チケット型で、工事の完了とともに役目を終えます。土地改良事業の認可は会員証型で、後に続く換地処分(土地の割り当ての変更)などの一連の手続の土台として生き続けます。見ていく判例は3つです。
チケット型2つと、土台型1つです
まず建築確認です。建築確認は「工事をすることができる」という法的効果のみを持ちます。工事が完了すれば効果は尽き、取消しを求める訴えの利益は失われます(最判昭59.10.26)。開発許可も同じ型で、市街化区域内の開発許可は、工事が完了して検査済証(工事完了を確認する証明書)が交付されれば、法的効果が尽きます(最判平5.9.10)。
これに対して土地改良事業の施行認可は、後続の換地処分等の一連の手続の法的基盤です。工事がすべて完了し、原状回復が社会通念上不可能になっていても、認可が取り消されればそれらの手続の法的効力に影響します。だから訴えの利益は消滅しません(最判平4.1.24)。
では「元に戻せない」という現実は、どこで考慮されるのでしょうか。それは訴えの利益ではなく、事情判決(行訴法31条。処分が違法でも、取り消すと公の利益に著しい障害を生じ、取消しが公共の福祉に適合しないと認められるときは、請求を棄却できる仕組み)の問題として、本案の中で扱われます。入口で訴えを退ける理由にはならない、という整理です。
「原状回復が不可能だから訴えの利益なし」は、すり替えです
「工事が終われば常に訴えの利益は消える」という肢は誤りです。建築確認・開発許可では消えますが、土地改良事業では残ります。「常に」「いかなる場合にも」が付いたら、土地改良を思い出してください。
「原状回復が社会通念上不可能となった場合、訴えの利益は消滅する」も誤りです。原状回復の困難さは事情判決(31条)で扱う本案の問題であって、入口を閉じる理由ではありません。この2つの論点の切り分けが、このユニットで一番出題される部分です。
工事や事業の進行を横目に争うかどうかを決める場面では、時間との勝負になります。依頼者への説明で大事なのは、「工事が終わると争えなくなる型」(建築確認・開発許可)と「終わっても争える型」(土地改良)を最初に区別して示すことです。この区別を知らずに「工事が終わったのでもう無理です」と一律に答えるのは、型の見誤りです。
冒頭の問いに戻ります。工事完了後も争えるのは、処分が後続手続の法的な土台として生き続けているときです。チケット型(建築確認・開発許可)は役目を終えて消え、土台型(土地改良の認可)は残ります。次のユニットでは、工事ではなく時間そのものが利益を消していく型を見ます。