住民監査請求と住民訴訟 — 1人から始めて、裁判所まで届きます
市が特定の業者に、相場より不自然に高い金額で工事を発注した、としましょう。おかしいと思った住民が1人いれば、この支出を追及しにいける制度があります。署名集めは要りません。直接請求と違って、たった1人で始められて、最後は裁判所まで届く二段構えです。
住民1人が自治体のお金の使い方を正すには、どんな順番で何をするのでしょうか。
まず内部の監査窓口、動かなければ裁判所です
会社の不正対応に似た二段構えです。まず社内の通報窓口(監査委員)に調査を求め、それでも正されなければ、株主代表訴訟のように住民が裁判所へ持ち込みます。
対象は「財務会計上の行為」、つまりお金と財産の動きに限られます。覚える数字は3つ——監査請求は行為から1年、監査は60日以内、訴訟の出訴は30日以内です。
242条が入口を、242条の2が出口を定めています
住民監査請求(242条)は、住民であれば1人でもでき、対象は違法または不当な公金の支出・財産の管理・契約の締結などの財務会計上の行為(怠る事実を含む)です。行為のあった日または終わった日から1年を経過するとできません(正当な理由があるときを除く・2項)。監査委員は請求の日から60日以内に監査と勧告を行います(6項)。
住民訴訟(242条の2)は、この監査請求を経た住民だけが提起できます(監査請求前置)。監査の結果や措置に不服がある場合などに、30日以内(不変期間)に提起します。請求の型は4つで、①行為の差止め、②行政処分の取消し・無効確認、③怠る事実の違法確認、そして④職員や相手方に損害賠償・不当利得返還の請求をするよう、執行機関に求める請求です。
4号の構造に注意してください。住民が職員個人を直接訴えるのではなく、「自治体よ、あの職員に請求せよ」と自治体の執行機関に対して求める訴訟です。同じ請求について訴訟が係属している間は、他の住民は別訴を起こせません(4項)。
「監査を飛ばして提訴」「不当も訴訟で」——二段構えの崩しが手口です
第一の手口は前置の削除です。「住民は、監査請求を経ることなく住民訴訟を提起できる」は誤りです。監査請求前置は住民訴訟の入口の条件です。
第二の手口は対象のすり替えです。監査請求は違法に加えて不当な行為も対象にできますが、住民訴訟で争えるのは違法な行為だけです。「不当な支出について住民訴訟を提起できる」は誤りです。
第三の手口は4号の構造です。「住民は、損害を与えた職員個人を被告として損害賠償を請求できる」は誤りで、執行機関に請求を求める形をとります。
数字では、監査請求の1年(行為の日から)と出訴の30日を入れ替える肢、直接請求の署名数と混ぜる肢が出ます。住民監査請求に署名は不要です。
「市のお金の使い方がおかしい」という相談を受けたら、最初に描くのは時間軸です。行為から1年以内か、監査結果からまだ30日以内か。監査請求書は事実を証する書面の添付が必要なので、情報公開請求で支出関係書類を集めるところから逆算します。書類の収集と作成はまさに行政書士の得意分野で、住民側の初動を実務的に支えられます。
答えです。1年以内に住民監査請求(1人で可)→60日以内の監査→不服なら30日以内に住民訴訟、という一本道です。次のユニットは、住民ではなく機関同士——議会と長の攻防を見ます。