執行停止(行審法) — 「できる」の先に「しなければならない」があります
執行停止は、行政事件訴訟法にもありました。行政不服審査法25条の書き出しは、行訴法とほとんど同じです。「審査請求は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない」。止まらないのが原則、というところまでは同じ景色です。
ところが、その先が4か所で違います。そして試験は、ほぼこの違いだけを突いてきます。
行審法の執行停止は、行訴法の執行停止とどこが違うのでしょうか。
身内の審査だから、止める力は強めです
裁判所は行政の外にいるので、行政の判断に踏み込む力は抑制的に設計されています。審査庁は行政の中にいるので、遠慮が要りません。この位置の違いが、4つの違いをまとめて説明します。
4つの違いとは、①職権発動の有無、②とれる措置の幅、③義務的執行停止の有無、④内閣総理大臣の異議の有無です。順に条文で確かめます。
審査庁の立ち位置で、できることが変わります
第一に発動の仕方です。審査庁が処分庁の上級行政庁または処分庁自身であるときは、申立てだけでなく職権でも執行停止ができます(25条2項)。それ以外の第三者的な審査庁は、申立てがあった場合に、処分庁の意見を聴いたうえでできます(3項)。裁判所が申立てのみだったのと対照的です。
第二に措置の幅です。上級行政庁等は、停止のほか「その他の措置」もとれます(2項)。第三者的審査庁にはこれができません(3項ただし書)。
第三が最大の違いです。
…重大な損害を避けるために緊急の必要があると認めるときは、審査庁は、執行停止をしなければならない。(行審法25条4項)
行訴法では要件を満たしても「することができる」でしたが、行審法には義務的執行停止があります(但書=公共の福祉に重大な影響/本案に理由がないとみえるとき、は共通の型です)。
第四に、行訴法27条にあった内閣総理大臣の異議の制度は、行審法にはありません。行政の内部手続に、内閣総理大臣が割り込む必要がないからです。
「どの審査庁でも職権でできる」は行き過ぎです
職権の手口は両方向です。「審査庁は職権で執行停止をすることができない」は誤り(上級行政庁等はできる)、しかし「いかなる審査庁も職権でできる」も誤りです。第三者的審査庁は申立てのみで、処分庁の意見聴取も要ります(25条3項)。
義務の手口もあります。「重大な損害を避ける緊急の必要があっても、執行停止をするかどうかは審査庁の裁量である」は誤りです。申立てがあった場合のこの場面では「しなければならない」です(4項)。
制度の混入にも注意してください。「執行停止の決定に対して内閣総理大臣は異議を述べることができる」を行審法の場面に置く肢は誤りです。あれは行訴法27条の制度です。
「営業停止をとにかく早く止めたい」という依頼では、審査請求と取消訴訟のどちらのルートで仮の保護を狙うかが初動の分かれ道です。上級行政庁が審査庁なら職権発動もあり得ること、義務的執行停止の要件に載る事実(損害の回復困難性)を資料でどう示すか。ルート選択の材料を整理して特定行政書士や弁護士と共有するのが、期限管理と並ぶ初動の仕事です。
答えです。違いは4つ——職権でもできる場合がある・措置の幅が広い・義務的執行停止がある・内閣総理大臣の異議がない。行訴法側の景色(Wave 1)と往復して、対で固めてください。最後のユニットは、審査請求の結末と枝道です。