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行政書士 / 憲法 ・ 統治 ③裁判所
憲法の柱 ② — その3

憲法・統治③ 裁判所 — 司法審査の対象になるか、ならないか

統治行為論の2大判例、部分社会の法理の令和判例修正——「裁判所が審査しない」ケースのパターンを、判例ジャッジで体得する章。国会(第1章)・内閣(第2章)を経て、三権の最後の一角へ。

法令基準日:2026-04-01 現在施行の法令(令和8年度想定) / 頻出度:A(毎年出題) / 主たる根拠:憲法76〜82条

この章の問い

日米安保条約の違憲審査を裁判所は拒否できるか? 地方議会が議員を出席停止にしたら司法審査の対象になるか?

なぜ行政書士試験で問われるのか

行政事件訴訟では違憲審査権を持つ裁判所の判断が最終的な拠り所となるため、付随的違憲審査制の仕組み・統治行為論の限界・司法権の範囲を理解することは、行政書士が依頼人に対して訴訟戦略を説明する際にも不可欠な素養である。

厳密に見る

裁判所 — 構成・違憲審査制・大法廷

最高裁の構成長官1名+判事14名=計15名。大法廷15名・小法廷5名。

最高裁判所は大法廷(全15名)と小法廷(5名×3)で構成される。大法廷を開かなければならない場面は限られており、頻出。

大法廷を開かなければならない場合

① 法律・命令・規則または処分が違憲と判断するとき

② 最高裁の判例を変更するとき

地方議会議員懲罰事件(最大判令2.11.25)が大法廷判決であることも、判例変更であることの証左。

裁判官の身分保障(78条)

司法権の独立を実質的に担保するため、裁判官の身分は手厚く保護されている。

罷免事由の限定(78条)

裁判官は次の場合を除き罷免されない。

  • 心身の故障により職務を執ることができないと裁判により決定された場合
  • 公の弾劾による場合(64条:弾劾裁判所)

「行政機関による懲戒処分」は禁止(78条後段)。行政権による身分介入を排除。

弾劾裁判所(64条)— 構成に注意

罷免の訴追を受けた裁判官を裁くために、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける(64条)。弾劾裁判所は常設機関であり、裁判官訴追委員会(同じく常設)とセットで運営される。裁判所ではなく国会が設置・運営する機関であることが重要。

試験頻出:「弾劾裁判所は裁判官で構成される」→ 誤り。国会議員で構成される。

最高裁判所裁判官の国民審査(79条2項・3項)

最高裁判所裁判官は、任命後初めて行われる衆議院議員総選挙の際に国民の審査に付され、その後10年ごとに同様の審査が行われる。投票者の多数が罷免を可とすれば罷免

下級裁判所裁判官(高裁・地裁等)には国民審査制度はない。

付随的違憲審査制(81条)

日本は付随的違憲審査制を採用する。具体的な訴訟事件の解決に必要な限りで、法令の合憲性を審査できる。抽象的に「この法律は違憲か」を審査する権限はない。

憲法81条 最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。
警察予備隊訴訟(最大判昭27.10.8)

具体的訴訟事件を離れ、抽象的に法令の違憲審査を求めることは許されないと判示。日本の付随的審査制を確認した基本判例。

違憲判決の効力

個別的効力説が通説・判例。違憲判決は当該事件にのみ効力を有し、法律が自動的に失効するわけではない(法令が廃止されるには立法措置が必要)。

核心論点

司法権の限界 — 統治行為論・部分社会の法理

司法権には限界がある。「裁判所が審査しない」ケースのパターンを整理する。

統治行為論

高度に政治的な国家行為は、一見極めて明白に違憲・違法でない限り、司法審査の対象とならないとする理論。

砂川事件(最大判昭34.12.16)★★★

日米安全保障条約に基づく米軍の駐留が憲法9条に違反するかが争われた。最高裁は「高度の政治性を有する条約」として司法審査の対象外と判示。

対象:外交(条約)。キーワード:「高度の政治性」

苫米地事件(最大判昭35.6.8)★★★

内閣による衆議院解散の合憲性が争われた。最高裁は「極めて政治性の高い国家行為」として司法審査の対象外と判示。

対象:内政(解散)。キーワード:「極めて政治性の高い」

部分社会の法理

一般市民社会とは異なる特殊な部分社会の内部問題は、自律的解決に委ね、原則として司法審査の対象としない。

富山大学事件(最判昭52.3.15)

大学による単位認定の拒否が争われた。単位認定は大学の内部問題(部分社会の自律)として司法審査の対象外。ただし退学処分は一般市民としての権利義務に関わるため対象となる。

地方議会議員懲罰事件(最大判令2.11.25)★★★ ← 令和の重要判例変更

地方議会が議員に出席停止の懲罰を科した事案。最高裁大法廷は「出席停止処分は議員の核心的な活動を制限し、住民の代表としての議員の権能に直接影響する」として、司法審査の対象になると判示。部分社会の法理の適用を修正した重要判例変更。

旧判例:対象外 → 新判例(令和2年):対象となる

板まんだら事件(最判昭56.4.7)

宗教団体内部の本尊の真偽(宗教上の教義)が争われた。裁判所の審判権の対象となる「法律上の争訟」に当たらないとして却下。

司法審査の対象外の別ルート:「法律上の争訟」に当たらない場合

新判例

立法不作為 — 在外邦人の権利と国賠

立法不作為が国賠法上違法となりうる。特に選挙・国民審査に関する2つの最高裁判決は最重要。

在外邦人選挙権訴訟(最大判平17.9.14)

在外邦人の選挙権行使を制限した公職選挙法の規定が違憲とされ、長期にわたる立法不作為は国賠法上も違法と判示。

選挙権は民主主義の根幹。明白な違憲状態を長期放置→国賠責任肯定。

在外邦人国民審査権訴訟(最大判令4.5.25)★新判例

在外邦人が最高裁裁判官の国民審査に投票できなかった事案。審査権行使を認めない規定は違憲と判示。立法不作為は国賠法上も違法。

令和4年の最新判例。国民審査権は憲法79条2項・3項が保障する権利。

触ってわかる ①

司法審査の可否 — ジャッジトレーナー

判例の事案を読み、司法審査の対象になるか否かを判定する。統治行為・部分社会・法律上の争訟の3類型を意識して。

予想 → 答え合わせ

司法審査の対象 or 対象外?

事案を読み、結論を予想する。判決と理由がその場で出ます。

1 / 7
宗教団体の内部紛争で、本尊の真偽が争われた。
この事案は司法審査の対象になるか?
触ってわかる ②

結論が反転するペアを見分ける

砂川 vs 苫米地、令和2年の判例変更、付随的 vs 抽象的——3ペアで分かれ目を体得。

スイッチで切り替え

混同ペア弁別スイッチ

条約
砂川事件(最大判昭34.12.16)
日米安保条約という国際条約の違憲性が争われた事案。統治行為論で審査対象外
解散
苫米地事件(最大判昭35.6.8)
衆議院の解散という国内の統治行為が争われた事案。統治行為論で審査対象外
分かれ目 両方とも統治行為論だが対象が異なる。砂川=外交(条約)、苫米地=内政(解散)。
だから、こうなる

出題者の四つの手口

手口① 統治行為論に「一切・いかなる場合も」を付ける

「高度に政治的な国家行為は、いかなる場合も一切司法審査されない」→ 誤り。砂川事件(最大判昭34.12.16)は「一見極めて明白に違憲無効と認められない限り」という留保付き。理論上の審査可能性は残されている。

対策:「一切」「いかなる場合も」の断定語が出たら例外・留保を探す。統治行為論は「原則対象外+明白な違憲は別」。

手口② 部分社会の法理を「今も出席停止は対象外」とする

「地方議会議員の出席停止処分は、部分社会の法理により司法審査の対象とならない」→ 誤り。最大判令2.11.25で対象となると判例変更された。旧判例の結論を現在の結論として提示する時点ずらしのワナ。

対策:出席停止=令和2年で対象に変更。除名は従来から対象。単位認定(富山大学)は今も対象外。

手口③ 弾劾裁判所を「裁判官で構成」とする

「罷免の訴追を受けた裁判官は、最高裁が設置する弾劾裁判所で、裁判官によって裁かれる」→ 誤り。弾劾裁判所は両議院の議員で組織する(64条)。設置・運営するのは国会であり、裁判所ではない。

対策:弾劾裁判所=国会議員で構成=国会の機関。裁判官の身分保障(78条)とセットで罷免ルートを整理。

手口④ 違憲判決で「法律が自動的に失効する」とする

「最高裁が法律を違憲と判断すると、その法律は当然に効力を失う」→ 誤り。通説・実務は個別的効力説。違憲判決の効力は当該事件に及ぶにとどまり、法令を廃止・改正するには立法措置が必要。

対策:違憲判決=自動失効ではない。効力の範囲を「当該事件のみ」に限定して読む。

触ってわかる ③

本番の肢で、手口を見破る

演習 1 / 最高裁判所の構成

最高裁判所の裁判官の人数として正しいものはどれか。

  • 9名
  • 13名
  • 15名
  • 21名
演習 2 / 部分社会の法理

地方議会が議員に対して出席停止の懲罰を科した場合、判例上、この懲罰は司法審査の対象となるか。

  • 対象にならない(部分社会の法理により、内部規律の問題として一切審査が及ばない)
  • 対象になる(最大判令2.11.25により、出席停止処分も議員の権利行使を制約し住民の代表権能に直接影響するとして司法審査の対象と判示された)
  • 除名処分のみ対象になり、出席停止処分は今も対象外である
  • 統治行為論により、性質上その適否の判断は司法審査に適さないとされる
本試験形式

5肢択一 模擬問題

行政書士試験と同形式の5肢択一問題。判例年月日を正確に押さえて解答する。

本試験形式

裁判所の権能および司法権の限界に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。

  • 1 最高裁判所は、具体的な訴訟事件と離れて、抽象的に法令の違憲性を審査する権限を有する。
  • 2 砂川事件において、最高裁は日米安全保障条約について憲法適合性を判断し合憲とした。
  • 3 地方議会が議員に科した出席停止の懲罰は、部分社会の法理により現在も司法審査の対象とならない。
  • 4 弾劾裁判所は最高裁判所が設置する機関であり、裁判官が裁判員を務める。
  • 5 裁判官は、心身の故障による裁判による決定または公の弾劾によらなければ罷免されない。
自分の言葉で言うと?

弾劾裁判所を組織するのは〔 ? 〕の議員(64条)。砂川事件で司法審査が行われなかった根拠は〔 ? 〕論。地方議会の出席停止処分は〔 ? 〕の対象〔 ? 〕(最大判令2.11.25)。違憲判決の効力は〔 ? 〕にのみ及ぶ(個別的効力説)。

統治③ 裁判所 — まとめ

裁判官の罷免は心身の故障または公の弾劾のみ(78条)。弾劾裁判所は国会議員で構成(64条)。統治行為論:砂川(条約)・苫米地(解散)は対象外(明白な違憲は別)。部分社会:富山大学(単位)は対象外だが、地方議会出席停止(令2)は対象。最高裁は付随的審査制、違憲判決は個別的効力説(自動失効しない)。

出典と基準日

  • 法令基準日:2026-04-01 現在施行の法令(令和8年度行政書士試験 想定)。
  • 根拠条文:日本国憲法64条・76〜82条(e-Gov法令検索)、裁判所法5条。
  • 判例:最大判昭27.10.8(警察予備隊)、最大判昭34.12.16(砂川)、最大判昭35.6.8(苫米地)、最判昭52.3.15(富山大学)、最判昭56.4.7(板まんだら)、最大判平17.9.14(在外邦人選挙権)、最大判令2.11.25(地方議会懲罰)、最大判令4.5.25(在外邦人国民審査権)(裁判所判例DB)。

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独立ファクトチェック:✅ PASS(2026-06-29 opus検証 → ❌2件修正適用済み: 臨時会召集期限の明文規定なし修正、弾劾裁判所は常設機関)。2026-07-01 opus再検証で判例をe-Gov法令検索・裁判所判例DBと全件突合済み。2026-07-02:「憲法・統治」から裁判所編として分割新設(分割は既存の検証済み内容の再配置であり新規の法的主張は含まない)。