司法権の限界と違憲審査 — 校則は先生の領分、退学は外部にも開かれます
地方議会が議員に出席停止の懲罰を科したとき、その議員は裁判所に訴えられるでしょうか。かつての判例は「議会内部の問題だから対象外」としていましたが、2020年、最高裁は判例を変更し、出席停止処分は司法審査の対象になるとしました(地方議会議員懲罰事件)。「裁判所が審査しない」という結論には複数のパターンがあり、この判例変更はその境界線を動かした出来事です。
どんな場合に、裁判所は事件の中身に立ち入らず審査を控えるのでしょうか。
校則は先生の領分、退学処分は外部にも開かれます
学校にたとえると、日々の校則違反への指導は先生の領分(内部の問題)ですが、退学のような重大な処分は外部(裁判所)にも開かれています。大学の単位認定は内部問題として司法審査の対象外ですが、退学処分は対象になります。同じ考え方で、地方議会の内部規律のうち、議員としての活動を根本から制限する出席停止処分は、2020年の判例変更で対象になりました。
対象外の3パターンと、判例変更の急所を押さえます
第一が統治行為論です。砂川事件(最大判昭34.12.16)は日米安保条約の合憲性について、高度の政治性を有する国家行為は「一見極めて明白に違憲無効」と認められない限り司法審査の対象外としました。苫米地事件(最大判昭35.6.8)は衆議院の解散について、極めて政治性の高い国家行為として同様に対象外としました。いずれも審査の可能性自体はゼロではないという留保付きです。
第二が部分社会の法理です。富山大学事件(最判昭52.3.15)は大学の単位認定を内部問題として対象外としましたが、退学処分は対象とされます。地方議会議員懲罰事件(最大判令2.11.25)は、出席停止処分について、議員としての中核的な活動を制限するとして司法審査の対象としました——旧来の部分社会の法理を修正した判例変更です。
第三が法律上の争訟に当たらない場合です。板まんだら事件(最判昭56.4.7)は、宗教上の教義に関する判断そのものが問題となる紛争は法律上の争訟に当たらないとしました。
違憲審査制(81条)について、日本は付随的違憲審査制を採用しています。警察予備隊訴訟(最大判昭27.10.8)は、具体的な事件を離れて抽象的に法律の違憲性を審査することはできないとしました。違憲判決の効力は個別的効力説が通説・実務で、当該事件にのみ及び、法律が自動的に失効するわけではありません。
関連して、大法廷を開くべき場合は①違憲判断をするとき②判例を変更するときの2場面です(裁判所法10条)。弾劾裁判所(64条)は両議院の議員で組織される国会の機関であり、裁判所ではありません。立法不作為についても、在外邦人選挙権訴訟(最大判平17.9.14)・在外邦人国民審査権訴訟(最大判令4.5.25)が、長期にわたる立法の不作為を国家賠償法上違法と判断しています。
「一切審査されない」という言い切りと、判例変更の見落としが定番です
第一の手口は留保の削除です。「高度に政治的な国家行為は、いかなる場合も一切司法審査されない」は誤りです。砂川事件は「一見極めて明白に違憲無効」の場合を留保しています。
第二の手口は判例変更の見落としです。「地方議会議員の出席停止処分は、部分社会の法理により司法審査の対象とならない」は誤りです。最大判令2.11.25で対象になると判例変更されました。
第三の手口は弾劾裁判所の構成の誤りです。「弾劾裁判所は最高裁判所が設置し、裁判官が裁判官を裁く」は誤りです。弾劾裁判所は両議院の議員で組織される、国会の機関です。
第四の手口は違憲判決の効果の水増しです。「最高裁が法律を違憲と判断すると、その法律は当然に効力を失う」は誤りです。個別的効力説により、当該事件にのみ効力が及びます。
行政書士が扱う不服申立てや行政訴訟の相談で、「これは裁判で争えますか」という問いへの答えの土台がこの分野です。統治行為論や部分社会の法理に触れる場面は限られますが、「法律上の争訟」に当たるかどうかの一次的な見立ては、依頼者の期待値を適切に調整するために必要な視点です。
答えです。裁判所が審査しないのは統治行為論・部分社会の法理・法律上の争訟に当たらないの3パターンで、2020年の判例変更により出席停止処分は対象内に変わりました。これで憲法の選抜論点——人権3ユニット・統治4ユニットが一巡しました。次は基礎知識の分野へ進みます。