棚卸資産の評価 — 「古い牛乳から売る」とみなすかで、利益が変わります
同じ商品を、先月は1個100円で、今月は120円で仕入れました。1個売れたとき、原価は100円でしょうか、120円でしょうか。どちらを選ぶかで売上総利益が変わります——物の値段が動く世界では、「どれを売ったとみなすか」が利益を動かすのです。
みなし方のルールが棚卸資産の評価方法です。主役は2つ、そして「もう使えない1つ」が罠として出ます。
仕入価格が変動するとき、払い出した商品の原価はどのルールで決め、利益にはどう影響するのでしょうか。
先入先出は「古い牛乳から売る棚」、平均法は「混ぜてならす」です
先入先出法(FIFO)は、スーパーの牛乳棚と同じ発想です。古い仕入から先に売れたとみなす。だから売上原価には古い(物価上昇時は安い)単価が入り、期末在庫には新しい単価が残ります。
平均法は、仕入をぜんぶ混ぜて平均単価でならす方式です。期間全体で1回ならすのが総平均法、仕入のたびに平均を取り直すのが移動平均法。どちらも「どれを売ったか」を決めずに済むのが持ち味です。
同じ取引を2つの方法で計算して、利益差の向きを確かめます
期首在庫10個(@100円)、当期仕入10個(@120円)、当期に15個販売、期末在庫5個とします。
先入先出法:払出原価=10個×100円+5個×120円=1,000+600=1,600円。期末在庫=5個×120円=600円。総平均法:平均単価=(1,000+1,200)÷20個=110円。払出原価=15個×110円=1,650円。期末在庫=5個×110円=550円。
物価上昇局面では、先入先出法の払出原価(1,600円)は平均法(1,650円)より小さく、その分利益は高く出ます。「上昇時、FIFOは利益もB/Sの在庫額も大きめ」——この向きを固定してください。
そして罠の主役、後入先出法(LIFO)。新しい仕入から売れたとみなす方式ですが、現在の日本の会計基準では廃止されており、使えません。「認められている評価方法の組み合わせ」を選ばせる問題で、後入先出法を混ぜた肢が誤りとして機能します。
「後入先出法は現在も認められている」が、この論点の看板の罠です
選択肢に後入先出法が並んだら、まず廃止を疑ってください。日本基準では棚卸資産の評価方法として後入先出法は廃止済みです。「先入先出・平均法・個別法などから選択できる」は正しく、「後入先出法も選択できる」は誤り——この対で切れます。
利益の向きの逆転にも注意です。「物価上昇時、先入先出法は利益が低く出る」——逆です。古い安い単価が原価に入るのだから、原価は小さく、利益は大きい。牛乳棚を思い浮かべれば、暗記なしで向きが再現できます。
「今期は原材料が値上がりしたのに、利益が出すぎて税金が心配で」。仕入価格が急騰した年の相談では、評価方法が利益をどちらに振っているかを確認します。方法の変更には継続性の原則という壁がありますが、いま使っている方法が利益をどう見せているかを説明できるだけで、社長の数字の読み方が変わります。
冒頭の問いに答えます。払い出した原価は先入先出法(古い単価から)か平均法(ならした単価)で決め、物価上昇時は先入先出法の利益が高く出ます。後入先出法は日本基準では廃止——罠専用の名前です。これで財務諸表の基礎5ユニットが完結。P/Lの階段・B/Sの写真・CFの翻訳・償却と在庫の原価——決算書を「読む側」から「使う側」へ進んでください。