貨幣の時間価値 — 将来のお金は、利息を巻き戻して比べます
「今日100万円受け取る」か「1年後に100万円受け取る」か、どちらかを選べるとしましょう。金額は同じです。それでも、この選択には正解があります。今日の100万円です。
理由は1つです。今日受け取れば、預けて増やせるからです。この1つの理由から、ファイナンスの計算はぜんぶ始まります。式は2本、しかも互いに裏返しです。
「今日のお金」と「将来のお金」は、どうやって同じ土俵で比べればよいのでしょうか。
割引とは、利息の逆再生です
金利10%の世界を考えます。今日の100万円は、1年預けると110万円に育ちます。2年なら121万円、3年なら133.1万円です。増える向きの計算は、誰でも知っている複利です。
では逆に、「1年後の110万円」は今日のいくらと同じ価値でしょうか。答えは100万円です。預ければ110万円になる金額こそが、110万円の「今の値段」だからです。将来のお金を今の値段に直す操作を割引と呼びます。やっていることは、利息を付ける計算の逆再生です。
式は2本で1組です。掛ければ将来、割れば現在
今の値段を現在価値(PV)、将来の金額を将来価値(FV)と呼びます。金利r・n年なら、式はこの2本です。
数値で確かめます。金利10%で3年後の133.1万円の現在価値は、133.1万円÷(1.1)3=133.1万円÷1.331=100万円。検算します。100万円×1.331=133.1万円で、元に戻りました。
割り算のかたまり1÷(1+r)nには名前が付いています。現価係数です。本試験では「複利現価係数:0.826」のように問題文で与えられることが多く、その場合は将来のお金×係数の掛け算1回で現在価値が出ます。
「n年後」のnと、割る回数のズレが定番の罠です
誤りの型は2つです。第一に、割引くべき場面で利息を付けてしまう向きの取り違え。「3年後の133.1万円の現在価値」を133.1×1.331と計算すると、選択肢に必ず並んでいる177.1万円台の誤答にきれいに一致します。
第二に、年数のズレです。「2年後」なら(1+r)で2回割ります。1回しか割らない誤答(121万円÷1.1=110万円)も定番です。検算の型=「出た答え×(1+r)nが元の金額に戻るか」。掛け戻して戻らなければ、向きか回数のどちらかを間違えています。
「この設備、5年で元が取れる計算なんですよ」。社長の試算は、たいてい将来の回収額をそのまま足しています。診断士の最初の一言は「その回収額、今のお金に直して比べてみましょう」です。時間価値の一言が入るだけで、投資判断の助言は素人の電卓から専門家の診断に変わります。
冒頭の問いに答えます。将来のお金は(1+r)nで割って「今の値段」に直してから比べます。増やす計算(複利)の逆再生です。次のユニットでは「毎年同じ額を何年も受け取る」場合を、1年ずつ巻き戻さずに一発で計算する道具を手に入れます。