ABC — 割り勘を「頭数」から「食べた分」に変えます
大人数の飲み会で、ほとんど飲まない人が頭割りの会計に納得できない——あの不公平が、工場の原価計算でも起きています。段取り替えや検査の手間を山ほど食う少量生産品が、「頭数」(生産量)で割った瞬間、大量生産品と同じ原価に見えてしまうのです。
割り勘のルールを「食べた分だけ」に変える。それがABC(活動基準原価計算)です。
製造間接費を生産量比例で配分すると何が歪み、ABCはどう直すのでしょうか。
手間食いの少量品が、頭割りでは安く見えすぎます
製造間接費(段取り・検査・調達などの費用)は、製品に直接ひも付きません。伝統的原価計算は、これを直接作業時間や生産量などの1本の物差しでまとめて按分します。すると、生産量は少ないのに段取り替えや検査を頻繁に要求する製品——手間食いの少量品——のコストが、大量生産品に薄く広く付け替えられてしまいます。
ABCは、間接費をまず活動(段取り・検査・調達…)ごとの財布に分け、活動ごとに「1回あたりいくら」(コストドライバーレート)を計算し、各製品が実際に使った活動量で配分します。飲み会の会計を、頭数から「注文した分」に変える発想です。
同じ工場を2つのルールで計算すると、歪みが数字で見えます
製造間接費120万円の内訳=段取り60万円(30回)・検査40万円(100回)・調達20万円(20件)。レートは段取り2万円/回・検査0.4万円/回・調達1万円/件です。
製品A(生産1,000個・段取り20回・検査40回・調達15件):40万+16万+15万=71万円 → 1個710円。製品B(生産500個・段取り10回・検査60回・調達5件):20万+24万+5万=49万円 → 1個980円。
一方、伝統的な生産量比例なら120万円÷1,500個=両製品とも1個800円。検査の手間を食う製品Bの実態(980円)が、頭割りでは800円に化粧されていました。Bを800円ベースで値付けすれば、売るほど損に近づく——配賦ルール1つで、値付けと製品戦略の判断が変わります。
「ABCでは常に少量品の原価が高くなる」と言い切る肢に注意です
ABCで原価が高く出るのは「少量品」ではなく「活動を多く使う製品」です。少量でも手間いらずなら安くなります。量とコストの対応を短絡させた肢——「生産量が少ないほどABCの単価は必ず高い」——は誤りです。
もう1つは適用場面の取り違え。単一製品を大量生産する工場では、頭割りもABCも結果はほぼ同じで、ABCの手間だけが残ります。ABCが効くのは多品種少量生産で、間接費の比重が大きい現場——適用条件ごと覚えてください。
「うちは特注品ほど儲かってる気がするんだよね」。この感覚の検証にABCの発想は最短です。段取り・検査・図面対応の回数を製品別にざっくり数えるだけでも、特注品に付け替わっていない手間が見えてきます。厳密なABC導入の前に、「どの製品がどの活動を食っているか」の一覧化だけで診断の価値が出ます。
冒頭の問いに答えます。頭割り(生産量比例)は手間食いの少量品を安く見せ、ABCは活動ごとに財布を分けて「使った分だけ」配分することでその歪みを直します。最後のユニットは業績管理の総仕上げ——財務だけに偏らない成績表BSCと、資金の家賃まで払った後の利益EVAです。