比較優位 — 両方勝てる国ほど、役割分担で得をします
料理も掃除も、あなたの方が友達より上手だとします。それでも「全部自分でやる」のは損です。料理は圧勝、掃除は僅差なら——料理に集中して掃除を任せた方が、2人の合計はよくなります。
「全部勝っていても分担した方が得」。この直感に反する定理が比較優位で、国際貿易の出発点です。決め手は強さの絶対値ではなく、機会費用です。
両方の財で生産性が高い国と低い国の間でも、なぜ貿易が両国を豊かにするのでしょうか。
「その1時間で何を諦めたか」の安い方に特化します
ある財を1単位作るとき、諦めたもう片方の財の量を機会費用と呼びます。比較優位の原則(リカード)はこう言います——絶対的な生産性に関係なく、機会費用が相対的に低い財に特化して交換すれば、両国とも得をする。
「両方で優れている」(絶対優位)国にも、機会費用まで見れば必ず「相対的により得意な方」があります。全部で勝っている国が全部を作るより、圧勝の分野に集中した方が、世界全体の産出は増える——冒頭の料理と掃除と同じ構図です。
2国×2財の労働量表で、機会費用を計算し切ります
1単位の生産に必要な労働量を、日本=自動車4人・小麦2人、A国=自動車12人・小麦3人とします。日本はどちらも少ない労働で作れる——両財に絶対優位です。それでも機会費用を比べます。
日本:自動車1台を作る労働4人で小麦なら2単位作れた → 自動車1台の機会費用=小麦2。A国:自動車1台の労働12人で小麦なら4単位 → 機会費用=小麦4。自動車の機会費用は日本の方が安い——日本は自動車に、A国は小麦に比較優位を持ちます(小麦側の機会費用は日本1/2台・A国1/4台で、A国が安い)。
この「相対的に得意な財の生産に各国が特化し交換する」と、同じ労働量から世界全体でより多くの産出が得られます。なお発展形として、ヘクシャー=オリーン定理は「各国は豊富に持つ生産要素を集約的に使う財に比較優位を持つ」と、比較優位の源泉を要素の賦存量で説明します。
「両方で生産性が高い国は、貿易の利益がない」と言わせる肢が定番です
絶対優位と比較優位の混同が、この論点の出題のほぼすべてです。「A国はいずれの財でも生産性が劣るため、貿易から利益を得られない」——誤り。比較優位は必ずどちらかの財に生じるので、生産性で全敗の国にも特化と交換の利益があります。
計算側の罠は機会費用の分数の向きです。自動車1台の機会費用は「自動車の労働量÷小麦の労働量」(4÷2=小麦2)。逆向きに割った1/2を比べて特化先を逆にする誤答が、選択肢できれいに対になります。
「何でもできる番頭さんに、雑務まで任せていませんか」。比較優位は組織の分業にもそのまま使えます。優秀な人ほど「全部できる」せいで仕事を抱えがちですが、その人の1時間の機会費用が最も高い仕事に集中させ、他は仕組みや他メンバーへ——診断の現場で、社長自身の時間配分を見直す物差しになります。
冒頭の問いに答えます。貿易の利益は絶対的な強さではなく機会費用の差から生まれ、全部で勝つ国も負ける国も、相対的に得意な財への特化と交換で豊かになります。次のユニットは開放経済の政策論——為替相場制度で財政・金融の効き目が入れ替わる、マンデル=フレミングです。