shikakuホームへ
経済学・経済政策 / 経済学の土台経済
経済学の土台 4/5 / 約5分

乗数理論 — 使ったお金はバケツリレーで膨らみます

政府が道路工事に100万円使うと、GDPはいくら増えるでしょうか。「100万円」ではありません。工事業者に入った100万円のうち8割が使われ、それを受け取った人がまた8割を使い……とお金がバケツリレーで回り続けるからです。

100+80+64+51.2+……の合計は500万円。この「5倍」を一発で出すのが乗数です。

この5分の問い

政府支出・減税はそれぞれGDPをいくら増やし、なぜ効き目に差があるのでしょうか。

直感でつかむ

リレーの合計は1/(1−c)倍——回る割合が大きいほど膨らみます

受け取った所得のうち消費に回す割合を限界消費性向cと呼びます。c=0.8なら、100→80→64→…の無限の連鎖の合計は100÷(1−0.8)=500。つまり政府支出乗数=1/(1−c)です。cが大きい(みんなよく使う)ほどリレーは長く続き、乗数は大きくなります。

では減税はどうでしょう。減税100万円は、まず家計に入ります。家計はそのうちc=80万円しか使いません——リレーの1走目から2割漏れる分、効き目は政府支出より一段小さいのです(租税乗数=−c/(1−c)。増税ならGDPは減るのでマイナス符号)。

乗数の合言葉政府支出乗数=1/(1−c)、租税乗数=−c/(1−c)。減税は1走目から漏れる分だけ弱い
厳密に見る

c=0.8で3つの乗数を計算し切ります

c=0.8とします。政府支出乗数=1/(1−0.8)=5——ΔG=100万円でΔY=500万円。租税乗数=−0.8/(1−0.8)=−4——増税ΔT=100万円でΔY=−400万円(減税なら+400万円)。

そして名物の均衡予算乗数。同額の政府支出増と増税(ΔG=ΔT)を同時に行うと、5−4=1——GDPはちょうどΔGだけ増えます。式でも 1/(1−c)−c/(1−c)=(1−c)/(1−c)=1 と、cの値によらず必ず1になります。「財源をまかなった公共事業でも、GDPは使った分だけ増える」という美しい結論です。

結論が反転する分かれ目
政府支出
1/(1−c)
全額が1走目からGDPに。c=0.8なら5倍
租税
−c/(1−c)
1走目にc割しか使われない分だけ弱い。c=0.8なら−4
分かれ目 絶対値の差はちょうど1——それが均衡予算乗数=1の正体です。符号(増税はマイナス)の落とし穴に注意。
ここで間違える

租税乗数の符号と「1走目の漏れ」を突いてきます

第一の罠は符号です。租税乗数はマイナス(増税でGDPは減る)。「増税100万円でGDPは400万円増える」と符号を落とした肢が並びます。

第二の罠は大きさの比較。「同額なら減税も政府支出も効果は同じ」——誤りです。政府支出は全額が1走目からGDPになりますが、減税は1走目にc割しか使われません。|政府支出乗数|>|租税乗数|、差はちょうど1です。均衡予算乗数=1はこの差の言い換えでもあります。

実務では

「補助金と減税、地域経済にはどっちが効くの?」。商店街や自治体の議論で、乗数の発想はそのまま使えます。直接の支出は1走目から需要になる、減税・給付は貯蓄に漏れる分だけ弱い——ニュースの経済対策を「何倍で効く政策か」で読み分けられるのは、診断士の基礎体力です。

確かめる — 予想してから答え合わせ
この5分のまとめ

冒頭の問いに答えます。政府支出はGDPを1/(1−c)倍に膨らませ(c=0.8で5倍)、減税は1走目の漏れの分だけ弱く(−c/(1−c)=−4)、同額の支出+増税なら乗数はちょうど1。最後のユニットでは、この財政政策に金利という制約が加わります——IS-LM分析です。