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企業経営理論 / 競争優位と革新競争
競争優位と革新 5/5 / 約5分

イノベーション — 優良企業ほど、新しい波に乗り遅れます

ガラケーのメーカーは怠けていたのではありません。カメラの画素数を上げ、電池を持たせ、既存の顧客の要望に誠実に応え続けていました。その最中に、通話品質では劣る「電話」——スマートフォン——が市場ごと持っていったのです。

なぜ優良企業ほど新しい波に乗り遅れるのか。技術はどう生まれ、どう普及するのか。イノベーション理論群は、提唱者の顔ぶれが多いぶん、ペアリング問題の宝庫です。

この5分の問い

新しい技術や製品はどのように生まれて普及し、なぜ優良企業がその波を見逃すのでしょうか。

直感でつかむ

Sカーブの頭打ちに、新しいカーブが割り込みます

技術の性能は、努力に比例しては伸びません。初期は伸び悩み、成長期に急伸し、成熟期に頭打ちになる——技術のSカーブ(フォスター)です。頭打ちの頃、性能ではまだ劣る新しいSカーブが下から割り込んでくる——ガラケーとスマホの交代劇です(技術の不連続)。

優良企業が見逃す理由をクリステンセンはイノベーターのジレンマと呼びました。既存顧客の声に忠実な企業ほど、既存製品の性能向上(持続的イノベーション)に投資し、最初は劣って見える破壊的イノベーション——ローエンド型・新市場型——を「うちの客は求めていない」と合理的に無視してしまうのです。

イノベーションの合言葉破壊的は「最初は劣る」——既存客の声への忠実さが、新しい波を見逃させる(クリステンセン)
厳密に見る

シュンペーターの新結合5類型と、普及の5層+キャズムまで揃えます

出発点はシュンペーターの新結合——イノベーションは①新製品②新しい生産方法③新市場④新しい資源(供給源)⑤新しい組織の5類型で起き、古いものを置き換えていきます(創造的破壊)。近年の定番がオープン・イノベーション(チェスブロウ)——社外の知識を取り込むアウトサイド・インと、自社の知識を外に出すインサイド・アウトの双方向です。

普及の側はロジャーズの5層——イノベーター2.5%→アーリーアダプター13.5%→アーリーマジョリティ34%→レイトマジョリティ34%→ラガード16%。ムーアはアーリーアダプターとアーリーマジョリティの間に越えがたい溝=キャズムがあると指摘しました。新しもの好きに売れても、実利で動く多数派に渡れず消える製品が多いのです。

結論が反転する分かれ目
持続的
既存製品の性能を高める
既存顧客の要望に応える改良。優良企業が得意とする側
破壊的
最初は劣る性能で別の土俵
ローエンド型・新市場型。低価格や手軽さから市場を奪う
分かれ目 「破壊的=高性能な新製品」が定番の誤り肢。破壊的は最初は劣って見える——だから優良企業が合理的に無視するのです。
ここで間違える

「破壊的=高性能」とキャズムの位置、提唱者の総付け替えに注意です

最大の誤り肢は「破壊的イノベーションとは、既存製品を性能で上回る画期的な新製品を指す」——真逆です。破壊的は最初は主要な性能で劣り、別の土俵(低価格・手軽さ・新しい用途)から市場を奪います。高性能化はむしろ持続的イノベーションの側です。

キャズムの位置も狙われます——イノベーターとアーリーアダプターの間ではなく、アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間。提唱者は、ジレンマ=クリステンセン・キャズム=ムーア・普及5層=ロジャーズ・Sカーブ=フォスター・オープン=チェスブロウ——顔ぶれが多いぶん、付け替え肢が作りやすい領域です。

実務では

破壊的イノベーションの担い手は、実は中小企業に向いた役回りです。大手が既存顧客に縛られて手を出せないローエンドや新市場は、失うものが少ない側の土俵——「大手の主戦場で性能勝負」ではなく「大手が降りてこない土俵で別の物差し」を探すのが、新事業の相談での定石です。補助金申請の事業計画でも、この理論の語彙は説得の骨格になります。

確かめる — 予想してから答え合わせ
この5分のまとめ

冒頭の問いに答えます。イノベーションは新結合(5類型)として生まれ、Sカーブを描いて成熟し、2.5%のイノベーターからキャズムを越えて多数派へ普及します。優良企業が波を見逃すのは、既存顧客への忠実さゆえ——破壊的イノベーションは「最初は劣る」からこそ見逃されるのです。強みの硬直(コアリジディティ)とドメインの再定義に、ここでつながります。