有利発行 — 安売りの新株は、株主の財布から出ています
時価1,000円の株を、特定の相手にだけ500円で大量発行したら——会社に入るお金が少ないだけではありません。既存株主の持分の価値が薄まる。安売りの差額は、実は株主の財布から出ているのです。
だから「特に有利な金額」での発行=有利発行には株主総会の特別決議が要る——W27の損得原則の続きです。あわせて「将来買える権利」=新株予約権まで固めます。
特に安い価格での新株発行には、なぜ厳しい決議が必要なのでしょうか。
薄まる不利益を、株主自身に確認させる設計です
募集株式の発行で、払込金額が引受人に「特に有利な金額」である場合——既存株主の持分価値の希釈という不利益が生じるため、株主総会の特別決議が必須です(取締役は総会でその条件が必要な理由を説明しなければなりません)。
対して通常の条件での第三者割当てなら、公開会社では取締役会決議で機動的に発行できます(非公開会社では原則総会決議——株主構成の変化に敏感な設計)。「誰がどれだけ損しうるか」で決議の重さが変わる——損得原則がここでも貫かれています。
新株予約権——「将来決めた価格で買える権利」です
新株予約権(236条以下)——あらかじめ決めた価格(行使価額)で、将来株式の交付を受けられる権利です。代表的な使い道がストックオプション——役員・従業員へのインセンティブ報酬。会社が成長して株価が上がるほど、権利の価値が膨らむ設計です。
発行の決議も有利発行の理屈が並走します——通常条件(公開会社)なら取締役会決議、無償とすることが特に有利な条件にあたる場合や、払込金額が特に有利な場合の発行なら株主総会の特別決議。「予約権も株式と同じ物差し」で覚えます。
「新株発行は常に株主総会決議が必要」——極端表現が定番です
定番の誤り肢は「常に」「すべて」型の極端表現——「募集株式の発行には常に株主総会の特別決議が必要」(誤り——特別決議が要るのは有利発行の場合。公開会社の通常発行は取締役会決議)。逆の「新株発行はすべて取締役会限りで行える」も誤りです。
「社債の発行には株主総会の特別決議が必要」も定番の誤り——社債は借金であって持分の希釈が起きないため、取締役会決議で足ります。株か借金か、薄まるか薄まらないか、で切り分けます。
ベンチャーや後継者育成の現場で、ストックオプションは「現金の代わりに未来を配る」報酬設計です——ただし発行手続(決議の種類)と税制適格の要件を踏み外すと、もらった側に思わぬ課税が発生します。診断士は制度の選択肢と落とし穴の地図を示し、具体設計は税理士・弁護士へ——「安く配る」ことの意味(誰の持分が薄まるのか)を経営者に翻訳するのが役回りです。
冒頭の問いに答えます。特に有利な金額での新株発行は既存株主の持分を薄めるため株主総会の特別決議が必須(通常条件なら公開会社は取締役会決議・社債は希釈がないので取締役会)。新株予約権は「将来決めた価格で買える権利」で、ストックオプションが代表例です。次はお金を配る側の規律——分配可能額と準備金へ。