略式と簡易 — 結論が見えている決議は、省略できます
90%の議決権を持つ親会社との合併を、子会社の株主総会にかける——結果は投票の前から決まっています。影響が資産のごく一部にとどまる小さな再編も同じ。結論が見えている決議は省略してよい、が会社法の割り切りです。
省略の2つの型(略式・簡易)の基準値——10分の9と5分の1——そして事業を売った側に課される20年の競業避止義務が試験の的です。
なぜ略式・簡易では総会決議を省略でき、事業を売った会社には競業避止義務が課されるのでしょうか。
略式=票が決まっている、簡易=影響が小さい、です
略式組織再編——相手が特別支配会社(総株主の議決権の10分の9以上を保有)である場合、支配されている側の総会決議を省略できます。90%持たれていたら否決はありえない——形式だけの総会を省く設計です。
簡易組織再編——存続会社が交付する対価が純資産額の5分の1以下なら、存続会社側の総会決議を省略できます。会社全体から見れば小さな取引——株主への影響が軽微だからです。「票のゆくえ」の略式・「影響の大きさ」の簡易、と趣旨で区別します。
事業譲渡——個別承継と20年の競業避止です
事業譲渡は合併と違い個別承継——契約・債務・従業員の移転に、1件ずつ相手方の同意が要ります(選んで買える柔軟さの裏返し)。事業の全部の譲渡には株主総会の特別決議が必要です(467条)。
売った側の規律が競業避止義務(21条)——譲渡会社は同一の市町村および隣接する市町村の区域内で、譲渡の日から20年間、同一の事業を行えません(特約で最長30年まで延長可・逆に特約で排除も可)。事業を売った当人がすぐ隣で同じ商売を始めたら、買った側の投資が無意味になるからです。
10分の9と5分の1の入れ替え、承継方式の混同が定番です
定番の誤り肢は基準値の入れ替え——「議決権の3分の2以上を保有する場合に略式手続が可能」(誤り——10分の9)・「対価が純資産の2分の1以下なら簡易手続」(誤り——5分の1)。
承継方式も的——「事業譲渡では、譲渡会社の債務は当然に譲受会社へ承継される」(誤り——個別承継なので債権者の同意等の個別手続が要る。当然承継=包括承継は合併の側)。競業避止の「20年」を「10年」に変える改変も出ます。
中小M&Aの現場で「合併か事業譲渡か」は最初の分かれ道です——簿外債務が怖い買い手は、欲しい資産だけ選べる事業譲渡を好み、許認可や契約の引き継ぎを重くみる売り手は包括承継を望む。競業避止義務は売り手経営者の「引退後」を縛る条項として交渉の火種になりやすい——20年という法定の重さを知った上で、特約での調整を設計するのが実務です。
冒頭の問いに答えます。略式(議決権の10分の9以上——票が決まっている)と簡易(対価が純資産の5分の1以下——影響が小さい)は総会決議を省略でき、事業譲渡は個別承継で、譲渡会社には同一・隣接市町村で20年の競業避止義務が課されます。会社法の締めくくりは、株式会社ではない選択肢——持分会社の3種類へ。