営業秘密 — 「秘密のつもり」だけでは、守ってもらえません
「顧客名簿を持ち出された!」——ところが裁判で、その名簿が誰でも見られる共有フォルダに入っていたことが分かると、保護は受けられません。「秘密のつもり」と「法律上の営業秘密」の間には、はっきりした線があります。
その線が3要件——秘密として管理し、役に立ち、世に知られていない。1つでも欠けたら守られない、が試験の的です。
企業の秘密が法律上の「営業秘密」として守られるには、何を満たす必要があるのでしょうか。
秘密管理性・有用性・非公知性——3つ揃って初めて、です
営業秘密の3要件(不競法2条6項)——①秘密管理性:秘密として管理されていること(アクセス制限・「マル秘」表示・パスワード等、「これは秘密だ」と分かる管理の実体)。②有用性:事業活動に有用な技術上・営業上の情報であること(製法・顧客名簿・実験データ等)。③非公知性:公然と知られていないこと。
3つは掛け算です——どれか1つでも欠ければ営業秘密ではない。とりわけ実務で欠けやすいのが秘密管理性——中身がどれほど貴重でも、管理がずさんなら法は守ってくれません。
侵害の型と救済の道具——民事と刑事の両輪です
侵害行為の型は不正取得・不正使用・不正開示——盗み出す、盗まれたと知って使う、漏らす。救済は差止請求(3条)・損害賠償請求(4条)・信用回復措置、そして悪質な事案には刑事罰まで——民事と刑事の両輪で守られます。
特許との使い分けも問われます——特許は公開と引き換えに20年の独占(出願内容は1年6月で公開される)、営業秘密は公開しない代わりに期限なく守りうる(ただし漏れたり独自開発されたりすれば終わり)。コカ・コーラの製法が特許でなく秘密で守られている、が定番の説明例です。
架空の要件を混ぜる肢と、管理性の軽視が定番です
定番の誤り肢は3要件のすり替え——「営業秘密の要件は、秘密管理性・有用性・登録性である」(誤り——3つ目は非公知性。営業秘密に登録制度はありません)。「新規性」「独創性」を混ぜる肢も出ます。
「社内で秘密と認識されていれば、アクセス制限等の措置がなくても秘密管理性は認められる」も誤り——管理の実体(制限・表示)が要ります。「つもり」では足りない、が管理性の核心です。
営業秘密の相談は、事件が起きてからでは遅いことが多い——3要件のうち秘密管理性は事前の仕込みだからです。顧客名簿にアクセス権限を設定する・重要ファイルに秘密表示を付ける・退職時の誓約書をとる——どれも今日からできる無料の防衛です。「御社の一番大事な情報は、誰でも開けるフォルダに入っていませんか」——この問診が、持ち出し事件の一年前にできる仕事です。
冒頭の問いに答えます。営業秘密の保護は秘密管理性・有用性・非公知性の3要件が揃って初めて——とりわけ管理の実体(アクセス制限・秘密表示)が生命線で、救済は差止・損害賠償から刑事罰まで及びます。特許(公開して20年)との使い分けまで含めて、知財後半の6本はここまで——次は会社法の世界へ進みます。