監査役・発起人・株券 — 独立性を守る任期と、権限の境界線です
監査役の任期はなぜ取締役より長く、しかも短縮できないのでしょうか。答えは「独立性」の一言に尽きます。取締役から独立した立場で監査を行うために、監査役だけは任期を動かせない設計になっています。この独立性という発想の軸を持てば、監査役・発起人・株券という一見バラバラな論点を、まとめて押さえられます。
監査役の任期・権限はなぜ取締役と違うのでしょうか。発起人の権限はどこまで及び、株券は発行するのが原則でしょうか。
独立性を守る任期と、経営陣の信任サイクルです
監査役の任期は4年で、短縮できません(336条、補欠を除く)。取締役から独立して監査するための設計です。これに対し取締役の任期は原則2年で、株主による信任を頻繁に問い直せるよう短縮できます(332条)。監査役は独立性を守る固定任期、取締役は株主の信任サイクルに応じた可変任期——この対比を軸にすれば、年数と短縮可否のセットが崩れません。
監査役の兼任禁止、発起人の権限の限界、株券の原則不発行を押さえます
監査役は、自己監査を防ぐため、その会社・子会社の取締役・支配人その他の使用人、子会社の会計参与・執行役を兼ねることができません(335条2項)。監査役の権限には、業務・財産の調査権と報告請求権(381条2項)、取締役会への出席・意見陳述義務(383条1項。ただし取締役会の構成員ではなく議決権を持ちません)、著しい損害のおそれがあるときの違法行為差止請求権(385条1項)があります。
発起人の権限は、設立を直接の目的とする行為(定款作成・株式引受けの募集・創立総会招集)に限られ、開業準備行為(成立後の営業に備えた店舗賃借・商品仕入れ等)には及びません(最判昭33.10.24)。開業準備行為の典型である財産引受けは、定款に記載(変態設立事項・28条2号)がなければ効力を生じず、判例は事後の追認も否定しています。
株券は原則不発行です(214条)。定款で株券を発行する旨を定めた会社(株券発行会社)だけが発行します。平成16年商法改正で不発行制度が導入され、会社法(平成18年施行)で「原則不発行」に転換しました(旧商法は発行が原則でした)。株券発行会社での株式譲渡は株券の交付が効力要件(128条1項)、株券不発行会社では意思表示で譲渡の効力が生じ、名義書換えが対抗要件(130条1項)です。
任期の対応セットの崩し、権限の拡大、原則の逆転が定番です
第一の手口は任期と短縮可否のセットの入れ替えです。「監査役の任期は2年で、定款で短縮できる」は誤りです。監査役は4年・短縮不可で、2年・短縮可は取締役です。
第二の手口は発起人の権限の拡大です。「発起人は、成立後の営業に備えて商品を仕入れる等の開業準備行為を当然に行うことができる」は誤りです。発起人の権限は設立を直接目的とする行為に限られます(最判昭33.10.24)。
第三の手口は株券発行の原則の逆転です。「株式会社は必ず株券を発行しなければならない」は誤りです。会社法では株券は原則不発行です(214条)。
会社設立の手続を支援する行政書士にとって、発起人の権限の限界は実務上の落とし穴になりやすい論点です。設立中に依頼者(発起人)が「先に店舗を契約しておきたい」と相談してきた場合、それは開業準備行為であり発起人の権限外であること、財産引受けとして扱うなら定款記載が必要であることを説明できるかどうかが、専門家としての価値を分けます。監査役の兼任禁止も、役員構成の相談時に必ず確認すべき事項です。
答えです。監査役は独立性のため4年・短縮不可、発起人の権限は設立を直接目的とする行為に限られ開業準備行為には及ばず、株券は原則不発行です。これで商法・会社法の死守ゾーンが押さえられました。行政書士「試験範囲全部」指令の全12Waveが、これで一巡しました。