原告適格の判断枠組み — 怒っている人が、争える人とは限りません
マンションや工場の建設に、近隣の住民が反対する。ニュースで繰り返し報じられてきた光景です。ここに、法律の目で見ると不思議な構図があります。建設を許可したのは役所で、許可を受けたのは業者です。怒っている隣人は、この許可の「相手」ではありません。
処分性のユニットで見たとおり、許可は「処分」ですから、処分性の要件は満たします。しかし裁判所は続けて、別のことを確認します。処分の相手ではないあなたに、これを争う資格はありますか、という問いです。
処分の「相手」ではない人は、どんなときに取消訴訟を起こせるのでしょうか。
法律が「あなた個人」を守っているかどうかが、分かれ目です
歩道のガードレールを思い浮かべてください。あれは通行人みんなの安全のために置かれていて、あなたも毎日守られています。しかし「あなた専用」ではありません。一方、自宅の鍵は、あなたの家だけを守っています。法律の規制にも、この2種類があります。
社会全体のための規制から、たまたま恩恵を受けているだけの利益を「反射的利益」と呼びます。ガードレール型です。これでは原告適格は認められません。法律が特定の人の利益を個別に守ろうとしているとき、はじめて「法律上保護された利益」になります。このシリーズで見る判例は8つ、条文は1つです。
「法律上の利益を有する者」の一言に、すべてが詰まっています
根拠となる条文は、行政事件訴訟法9条1項です。
処分の取消しの訴え…は、当該処分…の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者…に限り、提起することができる。(行訴法9条1項)
処分の相手方(名宛人)には、当然に原告適格があります。営業停止を命じられた本人が争えないのでは、制度が成り立たないからです。問題はいつも第三者です。許可を受けた事業者ではなく、その周辺に住む人、競争相手、消費者。
判例は「法律上の利益」を、法律上保護された利益説で読みます。処分の根拠法令が、その利益を不特定多数の一般的利益としてだけでなく、個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含んでいるかどうか、という基準です。
「原告適格あり」も「勝てる」という意味ではありません
処分性と同じ構図がここにもあります。原告適格は入口(訴訟要件)の話であって、処分が違法かどうかはその先の本案で審理されます。「原告適格を有する者が提訴すれば、処分の違法性は当然に認められる」という肢は誤りです。
もう1つ、「相手方しか訴えられない」という思い込みも誤りです。第三者でも、法律が個別に守っている人には資格が認められます。その判定の道具が、次のユニットで見る9条2項です。
許認可の実務では、「あの許可を取り消させたいのですが」という相談が、申請者側ではなく周辺住民や同業者から来ることがあります。最初の見立ては、その人が処分の相手方か第三者か、第三者なら法律がその人の利益を個別に守っているか、です。ここを飛ばして手続論に入ると、動けない人に期待だけ持たせることになります。
冒頭の問いに戻ります。処分の相手でない人が争えるのは、法律がその人個人の利益を守ろうとしているときだけです。怒りの強さや被害の実感ではなく、法律の趣旨で決まります。次のユニットでは、その判定のために条文に書き込まれた道具、9条2項の四要素を見ます。