即時取得 — 又貸しの合鍵では成立しません
不動産には登記という公示手段がありますが、動産にはそれがありません。代わりに、動産の世界で公示の役割を果たすのは「占有」——今、誰がその物を持っているかです。この占有への信頼を保護する仕組みが即時取得ですが、信頼したと言えるためには、外から見て分かる形で物のやり取りがあったことが必要です。
無権利者から動産を買ってしまった買主は、所有権を取得できるのでしょうか。
「これからは君のために持っておくね」だけでは足りません
即時取得(192条)は、占有という外観を信頼して動産を取引した人を保護する制度です。ただし、外から見て何も変わらない引渡しの方法では成立しません。占有改定——売主が「これからは買主のために占有する」と心の中で切り替えるだけで、物理的な受け渡しは起きない方法——では、外部から占有の移転を認識できないため、即時取得は成立しません(最判昭35.2.11)。又貸しの合鍵を持ち続けているのと同じで、外形が変わらないのです。
5つの要件と、盗品・遺失物の特則を押さえます
即時取得の要件は5つです。①動産であること(不動産は対象外)、②取引行為によること(相続や時効取得のような取引によらない占有取得には適用されません)、③善意、④無過失、⑤平穏・公然な占有取得。この⑤の占有取得の方法として、占有改定は認められません。
盗品・遺失物には特則があります(193条・194条)。被害者・遺失者は、盗難・遺失の時から2年以内であれば、占有者に対して物の回復を請求できます。ただし占有者が、競売や公の市場、または同種の物を販売する商人から善意で買い受けた場合は、被害者・遺失者は占有者が支払った代価を弁償しなければ物を取り戻せません(194条)。
「占有改定でも成立する」が最頻出の誤りです
第一の手口は占有改定の許容です。「占有改定による引渡しでも、即時取得は成立する」は誤りです。占有改定では外部から占有移転を認識できず、即時取得は成立しません(最判昭35.2.11)。
第二の手口は取引行為要件の逸脱です。「相続によって動産の占有を承継した場合にも即時取得が成立しうる」は誤りです。即時取得は取引行為による占有取得を要件とし、相続や時効取得には適用されません。
第三の手口は盗品特則の期間の混同です。「盗品の被害者は、盗難の時から1年以内であれば回復を請求できる」は誤りで、正しくは2年以内です(193条)。
「中古品を買ったら、実は盗品だったと言われました」という相談は、即時取得の要件確認から始まります。占有取得の方法(現実の引渡しだったか)、善意無過失だったか、そして仕入れ元が公の市場や同種業者だったかによって、代価弁償の要否が変わります。中古品売買の契約書・領収書の作成支援を行う際は、取引の経路(誰から、どんな方法で仕入れたか)を記録に残すことが、後日の即時取得の立証に直結する実務です。
答えです。即時取得は取引行為による占有取得と善意無過失が要件で、占有改定では成立しません。盗品・遺失物には2年の回復請求権という別枠があります。物権の対抗関係が一巡しました。次は、貸したお金を回収するための担保の仕組みです。