労働法制と環境法 — 最低基準を決める法と、争いを調整する法は別です
労働条件通知書には「1日8時間、週40時間」という労働時間の上限が書かれています。会社がこの上限を守らなければ、どの法律が守ってくれるのでしょうか。労働者を守る法律は1つではなく、役割の異なる複数の法律が組み合わさっています。
労働者を守る法律にはどんな役割分担があり、環境を守る法律はどんな骨格を持つのでしょうか。
最低基準を決める法、団結を守る法、争いを調整する法は別物です
労働者を守る法律は、労働3法という3つの役割に分かれています。労働基準法は労働条件の最低基準を決めるルールブックで、労働時間(週40時間・1日8時間)や休日、割増賃金等を定めます。労働組合法は労働者が団結して交渉する権利(団結権・団体交渉権・争議権)を保護し、不当労働行為を禁止します。労働関係調整法は、労使の争いをあっせん・調停・仲裁によって予防・解決する役割を担います。役割は基準・団結・調整の3つです。
近年の労働立法の骨格と、環境法の体系を押さえます
労働3法に加え、近年の主要な労働立法があります。男女雇用機会均等法(1985年制定)は募集・採用・配置・昇進・教育訓練等での性別による差別を禁止し、1999年改正でセクシュアルハラスメント防止措置、2016年改正でマタニティハラスメント防止措置が事業主に義務づけられました。育児・介護休業法では、育児休業は子が1歳まで(最長2歳まで延長可)取得でき、2022年10月施行の産後パパ育休(出生時育児休業)は子の出生後8週間以内に4週間まで取得できます。2019年施行の働き方改革関連法は、時間外労働の上限を原則月45時間・年360時間とし、正社員と非正規雇用の不合理な待遇差を禁止する同一労働同一賃金を導入しました。
環境法の中心にあるのは環境基本法(1993年)です。これは公害対策基本法を廃止して発展的に継承し、自然環境保全法の基本理念部分を取り込んで制定された基本法で(自然環境保全法自体は改正のうえ現行法として存続)、環境保全の基本理念と国の責務を定めています。公害の代表的な7類型(環境基本法2条3項)は、大気汚染・水質汚濁・土壌汚染・騒音・振動・地盤沈下・悪臭です。国際的枠組みでは、2015年に採択され2016年に発効したパリ協定が、産業革命前と比べて気温上昇を1.5〜2℃に抑える目標のもと、各国がNDC(国別貢献)を策定・提出する仕組みです。これに先立つ京都議定書(1997年)は、先進国のみに数値目標を課す仕組み(日本はマイナス6%)だった点で、各国がNDCを提出するパリ協定と対照的です。
「労働基準法だけが労働者を守る法律」という誤解に注意します
第一に、労働3法の役割の混同。「団結権や争議権の保護は労働基準法が担う」は誤りで、団結権・団体交渉権・争議権の保護は労働組合法の役割、労働基準法は労働条件の最低基準を定める法律です。
第二に、環境基本法の成り立ちの誤認。「環境基本法の制定で自然環境保全法も廃止された」は誤りです。廃止されたのは公害対策基本法(発展的継承)——自然環境保全法は改正のうえ存続しています。
第三に、国際条約の目標設定の取り違え。「パリ協定は京都議定書と同様に、先進国だけに数値目標を課す仕組みである」は誤りで、先進国のみに数値目標を課したのは京都議定書、パリ協定は各国がNDCを策定・提出する仕組みです。
就業規則の届出や労務関連の手続き代理は社会保険労務士の業務範囲ですが、環境法の分野では産業廃棄物処理業の許可申請等、行政書士が直接担う許認可業務があります。労働3法の役割分担や環境基本法の骨格の理解は、依頼者を正確な専門家につなぐ判断や、環境関連の許認可業務の前提知識になります。
労働者を守る法律は最低基準(労働基準法)・団結権(労働組合法)・争議調整(労働関係調整法)という3つの役割分担、環境法は公害対策基本法を発展的に継承した環境基本法(自然環境保全法は存続)を中心とする体系です。これで政治・経済・社会の主要3ユニットが一巡しました。